コラム

COLUMN

2019年6月18日

パッシブデザインとは その1

令和が産声前夜に、このコラムを書いているのですが、記念すべき第一話、まずは、パッシブデザインのことからお話しさせていただこうと思います。

 

『パッシブデザイン』に私が出会ったのは2010年。今から9年も前のことになります。

ほんの数年前のことでありますが、住宅の進化の歴史の中でいうとずいぶん遠い過去のように感じられます。それほど住宅業界の中で「断熱・気密」「パッシブデザイン」「省エネ・創エネ」は、急激に進化し普及したと私は思っております。

その頃、世の中には設計的には「この建物は大空間で開放的ですよ~」とか「こうして大きな窓をとっているので明るいですよ~」という主観的な表現が蔓延していました。

本当は、暖かさ=断熱性能では無いのですが、「うちはウレタン断熱だから、暖かいですよ~」「外断熱だから年中快適です」といった性能(仕様や素材)=快適性といった、シンプルな表現が連呼されていたのです。かくいう私どももそうしていたわけですが・・・

そんな時に、パッシブデザインの巨匠にして師匠でもあります、野池政宏先生(後述・野池さん)に出会いしました。

 

 

野池さんは、「断熱性能は冬の暖かさには関係あるけど、それが全てでは無いよ。当然、太陽の暖かい光を取り込むことが出来たらより快適で省エネな家になるよね。さらに言うとそれらはすべて設計段階で建てる前に事前に計算できるようになるよ。それがパッシブデザイン(自立循環住宅)の基本でこれからの日本の家づくりに必要なことなんだよ」とおっしゃっていました。

今では当たり前に感じるこの言葉ですが、当時の私は度肝をぬかれました。と同時に「本当かな~・・・?そんなこと本当に自分たちでできるの~?」と、疑いも感じていました。(笑)

 

私の性格的にも、「やってみなければわからないことはやってみよう!」ですので、期待と不安を胸に、野池さんの指導のもとパッシブデザインを学びだしました。その翌年2011年(平成23年)に、東日本大震災がおこりました。

 

福島原発事故を契機に、住宅業界には「省&創エネルギー」「省CO2」を進めていくべしという大きな流れが作られ、電力の固定買取制度や100万円を超える補助金政策で太陽光発電が一躍ブームとなりました。

 

その全てを否定するわけではないですが実務としてパッシブデザインに取り組む中で「省エネ=機械設備であり、これからの省エネ住宅は機械設備で自動的に実現されるものだ」という考え方に「何か違う」と強く違和感を覚えたのを覚えています。

 

 

激しさを増す周囲の太陽光ブームを尻目に、タイコーはどっぷりとパッシブデザインで建築を続けてきました。

家が完成してからの実測による検証と理解、さらなる品質・設計の向上というローテーションを9年間踏み続けてようやくたどりつきました。

 

それが

「パッシブデザイン!!やっぱりこれは、住まい手の満足を満たせる設計手法だ!!」という結論です。

 

最近ではブームだった太陽光が逆に固定買取価格の低下、補助金の減少で下火になってきて、にわかに今度はパッシブデザインという考え方が注目を集めるようになってきておりますが、今からパッシブを学ばれる他社さんと我々では、この9年間での約300棟のお家づくりの経験戦歴が違います!!・・・たぶん違うと思ってます(笑)

 

そんなお宝ぎっしりのノウハウのような事もこのコラムで少しずつお話しさせて頂こうと思っています。

 

さてところで パッシブデザインとはいったいは何なのか?

 

-パッシブデザインの定義-

建物のあり方に工夫して、

建物の周りにある自然エネルギー(太陽、風、地熱)を最大限に活用・調節できるようにし、

高い質の室内環境を実現させながら、

省エネルギーに寄与しようとする、

建築設計の考え方と実際的手法。

 

要約すると、自然の恩恵と小さなエネルギーで「冬暖かく、夏涼しく、自然光で明るい」を目指す住まいの設計手法の事です。

省エネルギーと室内環境の質の向上を両立させることが目的なのですが、パッシブデザインでは「目指したい室内環境」がまず先にあって、建物のデザインや窓の開閉などによって太陽の光と熱、風の出入りをうまくコントロールすることで、目指す室内環境を実現しようとします。暖冷房設備や照明設備を使っても同じような室内環境を作り出すことはできるのですが、それを自然エネルギーで実現させようとする設計手法です。

なんだか良さそうでしょ? (笑)

 

師匠である野池さんは

パッシブデザインは「住まいと暮らしの文化である」とも語られています。

機械設備の発明や進化に私たちも含めて一般の生活者の方々は関わることはできませんが、自分たちの家のあり方や暮らし方は自分たちで考え、実践できます。

四季があり、気候の地域差が大きい日本という国で機械設備にできるだけ頼らずに気持ちよく過ごせる家と暮らし方のノウハウが積み重ねられていけば、それはまさしく文化と言えると。

 

高度成長期は「もっと便利を。もっと機能を。もっとモノを」という時代だったと思います。

自分の車を所有したい若者が減ってきた現象からわかるように、すでにそうした時代は終わりを迎え無駄で過剰な機能は不要だと感じ、自分たちの身の丈にあった合理的で賢い暮らしをしたいと思う人たちがどんどん増えてきました。

そんな価値観の変化に寄り添うのもまたパッシブデザインであると私は思っています。

少しづつその魅力(魔力)をお伝えしていきますね~。

 

信じるのか、信じないのかは、あなた次第です!

 

それでは。

 

 


参考文献

著者:野池 政宏『パッシブデザイン講義』

 

野池 政宏(のいけ まさひろ)
1960年生まれ。住まいと環境社代表。岡山大学理学部物理学科卒。
(一社)Forward to 1985 enegy life 代表理事、NPO法人WOOD AC理事、自立循環型住宅研究会主宰。主な著書:『パッシブデザイン講義』Passive-Design Technical Forum、『パッシブデザインの住まいと暮らし』(共著)農文協、『省エネ・エコ住宅設計究極マニュアル』エクスナレッジ、『本当にすごいエコ住宅をつくる方法』エクスナレッジほか。

 

一般社団法人Forward to 1985 energy life

3.11をきっかけに、野池政宏が発起人となり、省エネ住宅と暮らし方を普及すべく立ち上げた団体。全国の工務店、設計事務所、建材・設備メーカー(約200社)を中心に構成されている。快適で省エネな住宅に関する情報の配信、アドバイス、ツール開発などを行っている。