コラム
COLUMN
2019年6月18日
パッシブデザインの設計手法
今回はいよいよ、パッシブデザインの設計手法についてご紹介したいと思います。
パッシブ設計の5つの設計手法
①断熱・気密
②日射遮蔽
③自然風利用
④昼光利用
⑤日射熱利用暖房(パッシブソーラー利用暖房)
どれも大切な項目ではありますが、このひとつだけにとらわれて特化した設計を行うだけではパッシブデザインが本当に目指そうとするものには、十分に到達することはできません。また実務の設計の中でこれらのデザインは互いに対立することもあるため、
いかにうまくその対立を解消するかがパッシブデザインの最大のポイントになります。
例えば、伝統的な日本家屋は風通しがよく、軒が深くでている為に夏の日射遮蔽に優れています。ただし夏に特化したデザインであるため、冬の日射熱の利用が出来ていなかったりします。
逆に、パッシブデザイン=冬の日射熱の利用であるとだけ考えて設計すれば、今度は夏の快適性が損なわれていたり・・・。
最近では、ヨーロッパ型の超高断熱住宅がパッシブデザインであるという認識をもった人も増えてきましたが、断熱性能はパッシブデザインの基本として当然大切なのですが、やはりこの断熱ひとつに偏るのではなく5つの項目のバランスが大切になります。また一般の方でも快適な住宅を実現するという点からコスト面とのバランスも一つの重要な項目であると私は考えています。
この5つの項目を満たすだけでも十分に設計の難易度は高いのですが、ここに「地域、立地、住まい手」という個別の3つの要素をかけ合わせて「最適解」を作り出そうとする姿勢。それが実務としてのパッシブデザインです。
大量に効率よく生産するために、どこかで建てた家の図面を再利用するのとはちょっと違いますね。(いわゆる規格住宅)
私はパッシブデザインはまさにオンリーワンのオートクチュールの家のことだと思っています。
ただ単に高断熱&高気密という家の断熱性能(スペック)だけを言うのではなく、地域や住まい手といった個別の要件に、冬の日照による熱取得、夏の日差しの遮蔽、風通しといった周辺の立地環境を加味した設計提案を行うことがパッシブデザインの面白さであり、難しさです。
・・・やってみるとわかりますが本当に難しいです・・・・(笑)
躯体の断熱性能ばかりにこだわると、壁や屋根(天井)といったところがついつい気になってしまいますが、性能の高い断熱材を入れたり、厚みをいくら増やしても、パッシブデザインで大切な「熱、光、風」のうち熱の移動という1項目だけをとめているに過ぎません。
それに比べて窓は「熱・光・風」のすべての要素を取り込むことが出来ます。
ただし窓は躯体に比べて断熱性能が低く、特に冬に熱が逃げていく割合が多くなる場所でもあるので日当たりが悪い場所に過剰につけると逆に寒い家になってしまいます。また、断熱性能がいいからと言ってトリプルガラスのLOW=E窓を南面の日当たりの良い場所に取り付けるのもまた太陽の日射熱の取り込みも止めてしまうので、日中のポカポカした暖かさを止めてしまうことになり一概にメリットがあるとは言えません。
要するに、「窓」をどのように設計するか?はパッシブデザインにおいて極めて重要な肝のところだと言えます。
タイコーに来られるお客様の敷地は様々です。都市にある狭小の東向きの土地もあれば、郊外の広い南向きの土地もあります。もちろん周辺の環境(高低差、前面道路の幅、周囲の建物の形状)も異なります。だからタイコーの家は施工事例をみてをわかるように一棟づつ違った形状をしているのです。どのお家も屋根の形状や軒の高さ、窓の種類、大きさや位置が違うのは、まさにオートクチュールのパッシブデザイン。その証なのです。
「なるほど!」でしょ?
こんな風に、パッシブデザインでは最適解を考えていく中で、その敷地におけるお家の秘められた個性(ポテンシャル)はどんどん際立って行くものなので、無理に気をてらうようなことをしなくてもしっかりとオンリーワンのお家の骨格が出来上がっていきます。
皆様も私たちと一緒にリラックスして自然と調和するお家を目指していきましょう。(笑)
参考文献
著者:野池 政宏『パッシブデザイン講義』
野池 政宏(のいけ まさひろ)
1960年生まれ。住まいと環境社代表。岡山大学理学部物理学科卒。
(一社)Forward to 1985 enegy life 代表理事、NPO法人WOOD AC理事、自立循環型住宅研究会主宰。主な著書:『パッシブデザイン講義』Passive-Design Technical Forum、『パッシブデザインの住まいと暮らし』(共著)農文協、『省エネ・エコ住宅設計究極マニュアル』エクスナレッジ、『本当にすごいエコ住宅をつくる方法』エクスナレッジほか。
一般社団法人Forward to 1985 energy life
3.11をきっかけに、野池政宏が発起人となり、省エネ住宅と暮らし方を普及すべく立ち上げた団体。全国の工務店、設計事務所、建材・設備メーカー(約200社)を中心に構成されている。快適で省エネな住宅に関する情報の配信、アドバイス、ツール開発などを行っている。
参考文献
著者:野池 政宏『パッシブデザイン講義』