コラム

COLUMN

2021年7月1日

日射熱利用暖房|パッシブデザイン5要素

今回は、パッシブデザイン5要素のうち最後の項目である日射熱利用暖房についてご説明いたします。

この日射熱利用暖房は、個人的に一番重要だと思っています。そして同時に立地によっては実現することがとっても難しい要素なので、逆に燃えてくることが多いです・・・(笑)

日射熱利用暖房はその名の通り、冬に日射熱を室内に取り入れて暖房として利用するという設計技術です。このときに重要となるのが・・・

日射熱を取り入れる「集熱」(実際に光の入ることが確認できる南の窓を大きくとる)

入った日射熱を逃がさないための「断熱」(後の項で説明する省エネ基準における地域区分の基準値のUa値、Q値に0.7掛け程度に断熱性能を高める必要がある)

入った日射熱を蓄えておく「蓄熱」(室内の床・壁・天井のすべての材質ごとに有効な厚みまで熱を貯めておける性質があり、室温の低下とともにそこに蓄えられた熱が室内に放出されること)

以上3つのデザインをしっかりと考えることが大切です。

この3つが高いレベルで実現できれば、室温変動が小さくなって(一日を通じての室温の上下の幅が小さくなる)快適性が向上し、かなりの暖房エネルギーが削減できます。「集熱」「断熱」「蓄熱」は建物全体の設計に関わるもので、まさしく建物のあり方によって快適性と省エネルギーを得るというパッシブデザインの思想と合致するとても大切な設計項目と言えます。

ただし、日本海側沿岸部などの地域によっては日射量が不足していて日射熱利用暖房が効果的に使えない場合があったり、都市部では周囲にあるマンション3階建て等の高い建物によって冬の日射が遮られて十分な集熱が出来ないなど、敷地によってこの手法で得ることのできるメリットが大きく変わってきます。設計プランニング前にしっかりと事前に敷地の周囲を確認し、日射熱利用暖房が有効かどうかを検討していくことが重要です。

タイコーではプランニング前に必ず、周辺環境を確認して敷地の3Dを作成し、実際にお客様にその状況を確認していただきながらご要望をヒアリングさせていただきます。この手順が大切だと思っています。

当然、皆様のご要望も大切にしているのですが、敷地の状況は客観的事実になりますので、まずはこうした周辺環境を共有した上でヒアリングさせていただき、それからプランを考えていくことでパッシブで使い勝手のいい家を一緒につくりだしていきたいと私たちは考えています。

また「蓄熱」においても一般的にコンクリート造の建物に比べて木造住宅は蓄熱性が低いので蓄熱性能を上げる工夫をしなければなりません。しかし逆に上げすぎてしまっても今度は日中の日射によって室温が上昇しにくくなる(夜間にかけての室温の下向も緩やかになり結果的に得ている熱量の総量は同じ)など、設計士の知識と経験が重要になってくるなど「蓄熱」は奥深く渋いテクニックとなっています。

日射熱利用暖房、蓄熱、どちらもまた別の機会に詳しく説明していこうと思います。

参考文献:野池 政宏『パッシブデザイン講義』