コラム

COLUMN

2021年7月9日

日射量と熱エネルギー|太陽光を理解する

パッシブデザインにおいて「活用・調節」する自然エネルギーのほとんどは太陽光です。

パッシブデザインの5要素の中でも2つ目に紹介した『日射遮蔽』は窓ガラスから入る太陽光を防ぎ、太陽光が屋根や外壁に当たって熱となったものをいかに建物内に侵入させないかということを考える設計です。

また、4つ目に紹介した『昼光利用』は太陽をそのまま明りとして使う設計です。

最後に紹介した『日射遮熱利用暖房』も建物内に太陽光を入れてその太陽光が熱となったものを利用する手法となります。

ですので、太陽光に関する知識をもつことや、敷地で太陽光がどのように動いていくのかを把握することはパッシブデザインにおいて基本でありきわめて重要なのです。ここからの6話でまずそこを抑えていきましょう。

地球にとってもっとも大切な生命の根源である太陽光。果てしなく遠く1億4960万㎞も彼方から約8分19秒後に地球に届くそのエネルギーの偉大さを改めて見てみましょう!

誰もが体に太陽の光が当たって暖かったり日陰で涼しさを体験したことはあるでしょう。直接ではなく、間接的に太陽光が当たってモノや空間が温まったりした経験もあるでしょう。

例えば真夏に青空駐車場に止めていた車内には恐ろしいほどの熱気がこもり、ハンドルはもう触ることもできない・・・冬のリビングの床にできた陽だまりに座ると、他の場所比べてポカポカ暖かかった・・・といった日常生活の体験。

そんな当たり前と思っているありがた~い太陽光のエネルギーが、具体的にどれほど大きいものなのかを見てみましょう!

師匠である野池さんのパッシブデザイン講義から抜粋します。

東京を例に見てみましょう。

 

ここでは数値の違いよりもその大きさに注目してください。

 

例えば、1番上の南の冬は平均336w/㎡となっています。(あくまで平均値であり、最大出力は約3倍の916wです。エグイですね・・・)

つまり冬の南の窓や外壁には1㎡あたり平均で336wのエネルギーを持った太陽光が当たるということです。

・・・しかし、w(ワット)と言われてもピンとこないですよね。

少し前まではリビングやダイニングの電球がだいたい100wだったのを覚えておられる方もおられると思いますが、点けて放っておくと電球の周りもほんのり温かくなってましたよね?

もうちょっとイメージしやすいもので電気ストーブで比べてみましょう。

一般的な遠赤外線ヒーターは1本の電熱線で500wの能力です。(これが普通は2本設置されており、強運転モードなら1000wの出力になります)

一般的な掃き出し窓の大きさから(幅1.65m×高さ2.2m=3.63㎡)得ることのできる太陽の熱量を計算すると、3.63㎡×@336w=1219.68wの熱量が入ってくることになります。

ただし窓には当然ガラスが入っていますよね?

その窓ガラスの種類で室内に取り込む(防ぐ)ことのできる太陽熱エネルギー量が変わってきます。ガラスの種類は2重だったりLow-Eだったりいろいろあります。取り込む熱エネルギー量の割合を日射取得率と言いますが、それはガラスの種類ごとに決まっています。(各サッシメーカーの窓の種類、窓ガラスの種類ごとに異なります)

普通複層(2重のクリア)ガラスを使用した窓の場合は、この日射熱取得率0.79なので(窓に当たった熱エネルギーを100%とするとその79%の熱が家の中に入ってくる)その掃き出し窓1枚からは上記の1219.68w×79%=963.54wの熱エネルギーが入ってくるということになります。ちょうど一般的な遠赤外線ヒーターの強運転と同じ熱量を得ることができるということです。掃き出し窓に太陽光が当たって暖かい陽だまりができているということはまさにこういうことになります。

「なるほど! そりゃあ、陽だまりは暖かいはずだな!」

実際に家の中の温度がそのエネルギーによってどのように変化するのかを計算しようとすると・・・

入ってくる熱エネルギーだけでなく今度は家の中から外に出ていこうとする熱エネルギーも計算し、その収支によってどのように変化するかを見ていかないといけないので、ここまで単純ではありませんが、パッシブデザインでは当然そこをしっかりと把握した上でプランニングしていくことになります。

ひとまず日射量と熱エネルギーの関係については、ここでは「なるほど~!太陽の光ってすごいんだな~!」と記憶にとどめていただければ幸いです。

 

参考文献:野池 政宏『パッシブデザイン講義』