コラム
COLUMN
2019年6月18日
パッシブデザインの意義と価値
皆さま、HEMS(HOME ENERGY MANAGEMENT SYSTEM)という技術はご存知ですか?
タイコーでは、リビングのエアコンやTV、冷蔵庫といった各家電ごとの消費エネルギーを住まい手にも見てもらいながら、我慢しないで賢い省エネを実践してもらうために、現在すべての家にHEMSを標準採用させていただいています。
このHEMS、なんとなく世間では太陽光発電したらついてくる発電量が見れるモニターのようなものだと思われていますが、本来は「見える化するためのもの」ではなく家庭内のエネルギーを管理するシステムの事です。
今はまだ、エアコンや窓・ブラインド等の開閉、換気など住宅の快適性と連動するような住宅設備をコントロールできるまで進化していませんが、いずれすべてが機械によって自動制御されるようになっていくでしょう。すごい技術で、まるでSFのようです。
私は映画が大好きなので、ターミネーターのスカイネットや2001年宇宙への旅のHAL9000、アヴェンジャーズのウルトロンを連想してしまいます。
みな最後は暴走してしましますが・・・(笑)
確かにこのような機械設備で便利になっていく未来はワクワクするのですが、同時に住まい手の「賢い暮らし方」が止まってしまうのではないか・・・?とちょっとした不安も感じています。
家はその地域ごとに気象条件が異なり、またその立地によっても当然日当たりや風の入り方は異なります。そういった特性を活かした設計・建築がパッシブデザインです。引き渡し後は住まい手がその家での季節ごと時間ごとのちょっとした快適で省エネな暮らし方に気づいていただき、それを次世代に引き継いでいき「暮らしの文化」となって欲しいと思っています。
私は耐震性や建物の持続性だけでなく、こうした暮らし方の知恵そのものもロングライフデザインであると思って大切にしています。機械仕掛けの全国画一的な家づくりは、合理的ではありますが、やはり経済主義が根底にあって、このような住まい手が建物に愛着を感じるような関わり方が少し薄いのかな~と私は思ってしまいます。
エネルギー自給率が8%(2016年)ほどしかない日本では、石油や石炭のようなエネルギー資源の状況に大きく影響を受けます。また原子力発電の稼働率も3.11以前に戻ることは無いでしょうし、風力・水力・地熱といった自然エネルギーへの転換にはかなり時間がかかることも含めて、今後はエネルギーを大事に使うという価値観がじわじわと定着していくと思います。
たとえば朝日がでれば窓を開け、たっぷりと光と風を通す、夕方にはキチンと閉める、といったひと手間だけの無理のない丁寧なくらし方。そんな自然エネルギー使った合理的なパッシブデザインに最近は少しづつ注目が集まってきました。
大量に消費されていく“モノ”とは違い、親から子に受け継がれていく「暮らし方」。それは世界で一つだけの“モノ”であり“コト”でもあって、とても価値のあることだと思います。
パッシブデザインを通じてそんな愛される家や暮らしをつくるお手伝いをしていきたいと、私たちは考えています。
参考文献
著者:野池 政宏『パッシブデザイン講義』
野池 政宏(のいけ まさひろ)
1960年生まれ。住まいと環境社代表。岡山大学理学部物理学科卒。
(一社)Forward to 1985 enegy life 代表理事、NPO法人WOOD AC理事、自立循環型住宅研究会主宰。主な著書:『パッシブデザイン講義』Passive-Design Technical Forum、『パッシブデザインの住まいと暮らし』(共著)農文協、『省エネ・エコ住宅設計究極マニュアル』エクスナレッジ、『本当にすごいエコ住宅をつくる方法』エクスナレッジほか。
一般社団法人Forward to 1985 energy life
3.11をきっかけに、野池政宏が発起人となり、省エネ住宅と暮らし方を普及すべく立ち上げた団体。全国の工務店、設計事務所、建材・設備メーカー(約200社)を中心に構成されている。快適で省エネな住宅に関する情報の配信、アドバイス、ツール開発などを行っている。