コラム
COLUMN
2021年11月1日
採涼の条件と実態|風を利用する
吉田兼好(1283年~1352年)が鎌倉時代に書いた「徒然草」の中で以下のように言及しています。
通称「夏旨」と言われる一節が有名で、パッシブデザインだけでなくエコハウスと言えばよくこの言葉が使われるのですが、涼感を得るための通風は実際はなかなか難しいものです。
ではまず、通風のための条件を見てみましょう。
①風上から清涼な風が吹く
・周辺が緑に恵まれていると涼風が期待できる
・道路やアスファルト舗装の駐車場があると空気が加熱・汚染されて利用しにくい
②風上の隣棟間隔が広い
・風上側の建物との間隔が狭いと外部風は急に弱くなる
・十分な風が期待できるかどうか敷地周辺の冷静な分析が必要
③周辺が静寂である
・窓を開けても騒音が気にならないこと
・騒音や発熱の原因となる装備はレイアウトに注意が必要
(自邸・隣家ともにエアコンの屋外機など位置の確認)
④防犯面での配慮がされている
・窓をあけていても安全・安心であることはとても重要
・低温の外気を導入でき冷却効果が大きくなることで就寝時に窓を開放できること
確かになかなか都市部でこれらを満たすのは厳しそうですよね・・・
周辺環境による通風量の変化を、東京大学の前先生がシミュレーションをされているのでそちらをご紹介させていただきます。
4つのケースについて数値流体計算(CFD)による風通効果を検証されたものです。
ケース1とケース2は周りに何も建っていない大草原の一軒家を想定したもの。
ケース3とケース4は風上側の建物まで18mとかなり離れて設定しているが都市部での敷地を想定したものです。
結果として出てくる換気回数とは1時間あたりの居室内へ供給される、または排出される空気量(気積)を居室の容積で割ったもの。
ちなみに建築基準法で建物に定められている換気回数(24時間換気)は0.5回(2時間に1回家の中の空気を入れ替える必要があるという意味)なので通風による空気量が、換気に比べるととても大きいことがわかります。
ケース1(大草原)では風上、風下の窓を開けているので十分に風が抜けて涼感を得られます。
ケース2(大草原)では、風上の窓だけ開いて風下の窓を閉めた状態。風下の窓を閉めたことで換気量は1/10に激減しており、風を通すには入口だけでなく出口も必要であることがわかります。
ケース3(18m離れて風上側の建物あり)では、風上側の建物のために約1/3と風が弱まっていることがわかります。18mと現実の家よりも距離が離れているにも拘わらずその影響が大きいことがわかります。
ケース4(18m離れて風上側の建物あり)はケース3に高窓を開けた場合になります。吹き抜け空間委高窓を設けているので垂直方向に空気の流れができるため換気回数が増加しているものの劇的な効果UPではありません。
高窓は排熱には有効な手段であるものの、採涼にはそこまで劇的な効果がないことがわかります。
ここまで風の特徴についてお話ししました。
しっかりとした家全体でのプランニング、そして通風は何といっても住まい手の暮らし方(窓の開閉など)が重要であることを覚えておいてください。
通風における快適性の効果はだいたい1~2度の体感温度を得ることができます。
これについてはまたどこかでPMV・PPDの解説をしていく中でご紹介させていただこうと思います。
参考文献:前 真之「エコハウスのウソ」