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下田 結花しもだゆか

ラグジュアリー住宅誌『モダンリビング』パブリッシャー

旧婦人画報社(現ハースト婦人画報社)入社後、書籍編集部、『ヴァンテーヌ』編集部を経て、2003年より2016年3月までモダンリビング編集長。2016年4月からモダンリビング・パブリッシャー(発行人)として、雑誌・デジタル・を含め、モダンリビング・ブランド全体を統括している。ラグジュアリー住宅誌『モダンリビング』は1951年創刊。今年で69周年を迎え、「幸せを実感できる暮らし」を提案。自身も「暮らしは日常のプロジェクト」と日々を楽しみ、SNS・セミナー・講演などを通してその考え方を発信している。

取材:2020年2月10日

※記載の情報は取材時のものです。

聞き手:
タイコー 羽柴仁九郎
語り手:
下田結花氏

自分のライフスタイルに合ったデザインや家具はどのようなものか?

-インテリアデザインの流行について

モダンデザインの流行の移り変わりや変遷について、最先端でずっとお仕事されているので、肌で感じられているのかなと思うのですが、ここ数年のトレンドはどのような流れでしょうか?

トレンドの話の前に少し私自身についてお話させていただきますね。私はモダンリビングの編集長として13年、そして発行人として4年目になります。それまでは女性誌の編集をしていたので、ファッション・美容・カルチャーがメインで、全くインテリアや建築に触れてきませんでした。ですから、何の知識もなくモダンリビングに来たのです。

実際にモダンリビングで仕事をする中で、やはり現場に行く事が一番だと思い、ほとんどの撮影に同行していました。そこで設計の方や工務店の方とお話ししていろいろなことを学ばせて頂きました。インテリアに関しては、2004年からミラノサローネに毎年行っています。そこで「何か分からないけどすごい!」みたいな感じで、シャワーのように刺激を受けて…そういうことを毎年繰り返しているうちに、インテリアについてもたくさん経験することができました。

2003年に、何も分からないままに撮影現場へ足を運んでいて感じたことは、日本の家はまだまだインテリアに関しては手が届いていないということでした。

それが何年か経ってくると、「暮らし」や、インテリアに関して意識の高い方が増えてきて、きれいに暮らす家が多くなりました。

ミラノサローネを見ていて感じていたのは、ファッションほど早い変遷ではなくても、やはりその時々の流行はあるという事です。例えば、一時期ラスティックと言われるカフェ風なインテリアがとても流行りましたよね。
ミラノサローネで、前年まで真っ白な人工大理石のキッチンが主流だったBoffi(ボフィ)というキッチンブランドが、古材と石など異素材を組み合わせたキッチンの展示をしていて、「うわっ」と思った記憶があります。そこから1~2年で日本でもラスティックなインテリアがすごく流行り始めました。それが商業建築から一般住宅にも適応されるようになってきたのです。最近ではラスティックなものは少なくなってきて、またモダンかつシンプルな雰囲気に戻ってきたりという風に、インテリアは常に移り変わっていくように思います。それはやはり人の気持ちと連動しているのではないでしょうか。流行が出てくる流れというのはいろいろあって、例えばファッション業界での「流行色」は、2年前に世界流行色協会が決め、それが2年後に世の中に流行色となって出てくるのです。

そうなんですか!?そのような仕組みがあったとは、知らなかったです。

決めると言っても今年は赤です!というのではなく、もっとニュアンス的な決め方なのですが、それを元に各国の流行色協会が具体的な色を出しています。またパントーンという色見本の会社が「来年の流行色はこれです」と毎年年末に発表します。そうした「ファッション業界が出す流行色」と「インテリア業界の流行色」はやはり少なからずリンクしているのです。
私が思うのはやはり「人の気持ち」と「トレンド」は重なっているということ。例えばラスティックテイストが出てきたときには、「木の感触がいいな」とか、古材を美しく感じたりとか、何となくそういった「ぬくもり」を住まいにも求めていたと思います。
そこからまた「出来るだけすっきりとしたシンプルな暮らしをしたい」という気持ちが高まってくると、インテリアもそちらの方向に流れていく。トレンドを左右するというのとは少し違うのですが、不思議と「人の気持ち」と「トレンド」はどこかでリンクしていると思っています。

なるほど。今年なんて世界がとても激動していて、これから人々はどんな生活を求めていくのか?なかなか想像が出来ないですね。難しい……。

こんな話をしておきながら、実は私自身はトレンドをあまり信じていなくて(笑)。暮らし方は人それぞれなので、その人の暮らし方が一年でガラッと変わってしまうなんてことはないですよね。自分が好きだな、気持ちいいなと思うものがトレンドであろうとなかろうと、ずっとそのままでいいんじゃないかなと思うのです。

モダンリビングにずっと携わっているので、私の家は超モダンなのでは?といろいろな方に思われているようなのですが、全然そうじゃないんです。家具はほとんどアンティークの家具だったり、いろいろなスタイルが混じっていたりするので、モダンでもなんでもありません。
でも自分が好きだと思うデザインとか、心地いいと思う家具、自分のライフスタイルに合っているものって限られます。ファッションと同じで、モデルさんならどんなファッションでも似合うかもしれませんが、自分の体形や肌の色を考えると普通の人は似合うものが限られていますよね。暮らし方も一緒だと思うのです。人の暮らし方はかなり幅が狭くて、ましてや家族がいたり、ペットがいたり、いろいろな条件がありますから。
例えば、私はポール・ケアホルムの家具が大好きなのですが、自分の暮らしにはストイックすぎて似合わないんです。どちらかというと家でごろごろしたい方なので、ポール・ケアホルムに怒られそうな感じで(笑)。ファッションもインテリアも同じで、「好き」と「似合う」は違うということでしょうね。

なるほど、そうですね。昔はファッションと車、ファッションとインテリアの嗜好性がちぐはぐな方が結構いらっしゃったのですが、最近そういう方がどんどん減ってきて、こういうファッションの方はこういう家が好みでインテリアも多分こうで…というのが想像できますし、こういう音楽を聞いてそうみたいなイメージが統一されてきて、ちぐはぐさは無くなっているのですが、本当にそうなのかな?という気はしています。本当はもっといろいろなものが好きだったりするんじゃないのかな~って思ってしまう部分もあります。

車やファッションはその人の一面をすごく表現しているものだと思います。モダンリビングでも「スタイリングビジネス」をやっていて、年に数件、住宅インテリアをコーディネートしています。その時にどういう車に乗っていらっしゃるかは、インテリアの方向性を見極めるのにすごく参考になるところです。ただ、おっしゃる通り、それはその方の一面でしかなくて、実は本音を言うと、家では床の上でごろごろしたいという方もいらっしゃるかもしれません。車、時計、ファッションなどは外に持ち出せるもの、つまり人に見てもらうことが出来るものですよね。でも家の中は誰かを家に呼ばなければ見てもらうことが出来ない。ところが、SNSが登場してインスタグラムやFacebookなどで写真という形で「家を外に持ち出すこと」が可能になりました。つまり、「あの人はこんな家に住んでいるんだ」「あの人はこういうインテリアが好きなんだ」と服や時計、車などと同じような位置づけになったと思うのです。

これはものすごく大きな違いだと思います。例えば芸能人のインスタグラムを見ていても「あっ、この人こういう家具を使ってるんだ。イメージ通り!」とか、いかにもというモデルさんでも意外性があったりすると、余計「かっこいいな~」とか思ったりする。写真を通してインテリアを外に持ち出せるようになったということはすごく大きいことだと思います。

なるほど。確かにおっしゃる通りです。

私は基本的に、それはとてもいいことだと思っています。「暮らし」はその方のライフスタイルの中でとても大きな部分を占めるものですから。車やファッションは素敵なのに、家の中は全然別物というのは悲しいですよね。

そうですよね。家づくりにおいて最近のお客様と打ち合わせをしていても「見せること」を前提に考えておられるなと感じる事がたまにあります。当然毎日見るものなので、こだわられているのだと思いますが、それ以上に誰かに見せようとしてるなということを感じるのです(笑)
統一されたインテリアテイストは気持ちがいいので出来る限り協力させてもらいたいなと思いますね。

-エクステリアデザインについて

インテリアだけでなく多岐にわたってお仕事をされていると思うのですが、その中でやはりエクステリアも非常にご興味があるところでしょうか?

モダンリビングに来る前に14年間やっていた女性誌では毎年イギリスに取材に行っていました。1991年に初めてイギリスに行ったときインテリアというものに目覚めたのです。こんなにも美しく暮らすことが出来るのか、ということを初めて目の当たりにしました。もう一つ驚いたのが、ほとんどの一軒家に小さくても庭があって、その庭が眺めるだけではなく、ひとつの「部屋」になっていたということです。屋根は無いのですが、そこでごはんを食べたり、お茶を飲んだりということがイギリスの人たちの暮らしの中には当たり前の風景としてありました。

2003年にモダンリビングをやることになった時、当時のモダンリビングは建築寄りの雑誌で、誌面をめくっていくとほとんどグレーか茶色で緑がありませんでした。それを見て「緑あふれる誌面にしたい」と思いました。その時にイギリスのことを思い出して、毎年8月号で庭の特集をすることしたのです。一番初めの特集号には「庭というもうひとつの部屋を持とう」というタイトルを打ちました。そうするとそれがとても売れて、「あっ、やっぱりこういう暮らしを求めているんだな」と自信になりました。
「眺める庭」もいいのですが、今求められているのは「過ごすための庭」だと思います。庭というと皆さん大げさなものを考えられるのですが、小さなテラスでも良いのです。そこに緑があって、家具があって、ちょっとお茶やビールを飲んだり、本を読んだりするスペースがあるだけで部屋が一つ増えることになりますよね。しかも風、光、景色、緑は日々変わっていって、二度と同じ瞬間はありません。その新鮮さは室内にはないものだと思います。モダンリビングの庭特集を通してその楽しみを知ってもらいたいなと思っています。

庭特集、私も好きな特集号の一つです。

先日グリーンスペースさんというこのショールームの庭を手掛けていただいた庭師の方とお話をしていたのですが、彼らはアメリカの庭にインスピレーションを受けて庭づくりをしているという風に仰っていました。その庭を実際に私たちが実務の中でやっていくとなると、大阪は土地が狭いという問題があるのですが、もうひとつの問題は蚊がとても多いということです(笑)
グリーンスペースさんにお話を伺っていると、そもそもヨーロッパには全然蚊がいないそうで。北海道まで行くと蚊もあまりいませんが、本州でジメジメとしている地域は特に多いので何とかできないかなというのはとても感じます。

その解決策といっていいのか分かりませんが、このサンルームは室内側サッシを締め切ることで外にもなるし、中としても使える空間です。もちろん排水設備も備わっているので気にせず水やりも出来ます。こういう空間を作ることで暑い寒いや雨、蚊などを気にせずにアウトドアを楽しめるのでは?と考えて作りました。モデルハウスは毎回建てたら観葉植物を入れるのですが、ここまでいい状態で育っているのは正直初めてです。一応スタッフが手入れをしているのですが、そこまで手間はかかっていません。このように、もう少し無理せずにライフスタイルの中で外との繋がりをつくるという事はお客様にもどんどん進めていきたいなと思います。

今の時代は共働き家庭も多く、ローメンテナンスでないとなかなか緑を楽しむ余裕もありませんよね。

モダンリビングでは東京と大阪で「LOVE GREEN」というレンタルグリーンビジネスもやっています。モダンリビングがスタイリングをして、実際にグリーン屋さんに月1回メンテナンスに行っていただくというものです。グリーンがあるとインテリアが生き生きして見えるので撮影のときにグリーンを持っていくことが多いのですが、そうすると、「この鉢はどこに売ってるんですか?」とか「これはどれくらい水やりすればいいんですか?」とか、お施主様がとても興味を示すのです。「グリーンがお好きなんですね。お買いにならないんですか?」と尋ねると、「もう何本も枯らしてるんです」と答えられる方がほとんどです。
レンタルだったらメンテナンスも入るし、メンテナンスの中でグリーンの扱い方も覚えていただけるということで「LOVE GREEN」始めたらとても好評で。その中でどうやってローメンテナンスにするかということを考えていくと、完全に自動灌水にしてしまうのが1つの方法です。コンセントと水栓があればできますし、そうすると水やりをしなくても良い。それだけでもすごく楽ですし、旅行にも行けます。手間がかからないようにするというのはとても必要なことなんじゃないかなと。水やりも楽しみとして出来る範囲ならいいのですが、ある線を超えると苦しみになってきますからね(笑)。

そうですね、心にゆとりが無いと楽しいともきれいとも思えないですからね(笑)。

SNS用の写真を撮っていたりすると、去年は緑がこんなに綺麗にふさふさしていたのに、今年は枯れてしまった…ということも結構あります。でもそれもまた楽しいことで、また新しくこういう風にしてみようかなとか、これってもう5年もこうして咲き続けてくれてるよねとか。建築は基本的に変わらないものだからこそ、コントロールのできないものがあるのは素敵なことですよね。

人が気持ちいいと感じる場所って暑すぎず寒すぎず、風通しが良くて、陽当たりがいいところですよね。それはグリーンも同じで、暑すぎるのも寒すぎるものダメですし、風が通らなくてムシムシしていると病気になってしまいます。だから人が気持ちいいと思う環境で育ててあげないといけないみたいです。

そうですよね。室内のグリーンで一番難しいのが「風」です。ここはモデルハウスなのでずっと窓を開けている訳にもいかず、サーキュレーターを回して風を疑似体験してもらっています。静止しているとやはり虫がついたりしてしまうみたいなのである程度揺らしてあげないといけないなと思っています。

-建築と照明の関係について

建築の中で重要なポイントとなるものの中に「照明」があると思うのですが、「建築」と「照明」の関係についてはどうお考えですか?

逆にタイコーさんはどういう風に考えておられるんですか?

私たちは昼の太陽の明かりというのを重視してパッシブデザイン設計をするので、僕らがお客様にお話しするのは昼間のことばかりです。真冬の太陽の光の入り方がどうのこうの…という事をメインにお話しているので、お客様は夜のことをあまりイメージできてないことが多いと思うのです。でも実際は夜の方が家にいる時間が長いのでそこでやっぱり日中どんなに明るくて暖かくても、特にご主人は仕事から帰ってきたら夜しかいらっしゃらないですし(笑)。その昼と夜との満足度のギャップを埋めるためにもやはり照明には少し予算を確保して頑張ってもらいたいなと思っています。

照明に関しては、そのご家族によって、心地よいと感じる明かりは違うと思います。人は慣れているものを心地よいと感じるので、それまでの人生でどういう照明の中で過ごしてきたかによります。ずっと蛍光灯の下で暮らしてきた方がいきなり間接照明の家で暮らすことになると、暗いと感じる。逆にヨーロッパで暮らしたりと、お仕事で海外に行ってらっしゃる方にとっては、蛍光灯の明かりの下は居心地が悪い。人によって感じ方が全然違うと思うのです。

その人にとっての心地よい明るさって何なのか、ということをまずは知る必要があると思います。私自身は毎年ヨーロッパへ行っていたこともあって、どちらかと言うと明るいのは苦手です。ですから私の家では、8年前にリノベーションしたときに天井灯は一切つけませんでした。キッチンの上にスポットライトがあるのと、ブラケットが何か所かありますが、それくらいで直接光はトイレとお風呂くらい。LDKはほとんどがスタンドライトです。ここで何かをするときはここの照明をつけるし、向こうで何かをするときにはそちらの照明をつける。全部一度につけることはなくて、その時々で必要な明かりをつけるという暮らし方です。その明かりに慣れていると蛍光灯の下に行くと落ち着かなくて、仕事しないといけないのかな?という感じになってしまいます。

蛍光灯の下だと全体的に明るすぎて自分の世界に入れないというか意識が集中しないですよね。

そうなんです。「くつろぐ明かり」は基本的にちょっと暗めで、少し低めの位置にあるオレンジ色っぽい明かりのほうが落ち着くのです。

商業施設の照明などを手がける照明デザイナーの方が、一杯のワインを500円に見せるのも5000円に見せるもの照明次第だとおっしゃっていらっしゃいました。それくらい照明ってすごく大きな力があるということ。確かに体感してみるとその通りで、客単価8000円のお店とファーストフード店では、全然照明が違います。心地よさという軸とは別に、料理をおいしそうに見せることも照明次第だと思います。

住宅照明は本当に難しいですよね。コーディネーターさんもよく嘆いておられますが、さんざん考えて照明プランを作って提案しても、「暗すぎるから倍の照明を入れて」と言われたりするとか(笑)。

照度や輝度なんかをしっかりと考えてご提案していてもお客様は本当にこれだけで足りるのか?分からないですし、不安だからもう少し足して…ってなっていくとどんどん明るく照明の存在感も大きくなってきてしまいますし、本当に難しいです。実際暮らしてみないとわからない部分でもありますからね。

暗いと感じるのは、必要なところに必要な明るさがないからなんです。どんなに全体を明るくしても、例えば新聞を読むときにそこにスタンドライトやスポットライトがないと暗いですよね。だから必要なところに必要な明かりをしっかりとご提案することが大事だと思います。あとはやはり色温度を揃えること。全体が明るかろうと暗かろうと、こっちはオレンジあっちはブルー、こっちは白みたいな感じで色が混じってしまっていると落ち着かない。色温度を揃えるということは最低限必要かなと思います。

-Roomを見てのご感想

本日こうして実際にタイコーの家に足を運んでいただきご覧になって思うことがありましたらお聞かせ下さい。

このテラスの作り方はいろいろな意味で参考になりますし、可能性があると思いますね。先ほど、外にも中にもなるとおっしゃっていましたが、実は私自身、以前からいろいろな人にこんな空間があったらおもしろいんじゃないかとお話していたのです。特に北国の家は寒くて外を使える期間が短いですよね。だからこそ外的空間を楽しみたいという気持ちはとてもあるわけで、開ければ外になるし閉めれば中になるという中間領域みたいなものを作っていかないと外と繋がるのは難しい。大阪だと蚊が多いとか、北陸のほうだと日が照らないとか、どこでもそれぞれデメリットがありますよね。そういうことを考えると、日本の場合は完全に外、完全に中じゃなくて、中間領域を作って外と内を使い分けられるようにすることが必要だと思っていました。ですからこのテラスはとてもいいと思いますね。

キッチンの作り方もとても面白いと思います。一つの憧れとしてカフェのような家とかホテルのような洗面とかあったりしますよね。日本では一般の方があまり他の人の家にいかないので、インテリアのイメージを取り入れる場というと、雑誌かカフェやホテルなどの商業施設しかないんですよね。カフェのような雰囲気のキッチンが素敵です。あそこに立ってお客様にコーヒーをお出ししたいな…って思えるし、気分が上がりますね(笑)。

ありがとうございます。単純に僕があそこでコーヒーを入れたかったというだけで実現した空間なんですが(笑)

東京ではコーヒーのサードウェーブから始まってたくさんのお店がありますよね。様々なコーヒーの淹れ方やスタイル、見ているとおしゃれなコーヒー専門店がとても多いので、大変参考になります。コーヒーなんてそんな高いものじゃないですし器具もそんな高くないので多分家でやりたい人絶対いるだろうなとか考えてしまいます。せっかく家を建てるならちょっと踏み込んだところまで考えてもらって新しい趣味を始めるための空間を作ってみてもいいかもしれません。

キッチンは生活の中心だと思うのです。いくら外食が増えたと言っても、キッチンって一番長く過ごす場所だったりもするわけです。
日本の家は変わったなと思うことの一つは、北側の一番隅っこの方にあったキッチンがどんどん真ん中に出てきて、最近では一番見通しの良い気持ちいい場所にある。そういう中で今までのキッチンの在り方でいいのかと考えると、やはり違ってきていると思うのです。今皆さんの暮らしの中にあるキッチンは「見せるためのキッチン」でもありますし、人がそこに行きたくなる、キッチンに立つことが楽しくなるような、場所がそれを誘発してくれるようなキッチンであるということがとても求められているのではないか、と思います。

-自分らしいライフスタイルを実現するには?

一般の方々は「自分らしいライフスタイル」を実現するためにまず初めに何をすればよろしいでしょうか。

家づくりは予算や子供が小学校に上がるまでに引っ越したいといった、外側のハード面から考えていくことが多いと思います。それは大事なきっかけだと思うのですが、それと並行してほしいのが、自分は何をしたいのか、何をしている時が一番気持ちいいのかを考えることです。

例えば家が完成した時に、家の中のどの場所に一番長くいるのだろうとか。多くの方はダイニングとリビングのスペースを同じくらいに取るのですが、ソファにいる時間が長いご家族と、ほとんどダイニングにいてソファはお父さんくらいしか座らないというご家族もいらっしゃいますよね。ですから、自分たちが一番長く居る場所はどこなのかということを、私はいつもお聞きします。そうするとだいたいリビング派かダイニング派二つに分かれます。それによって予算のかけ方も変えることをお勧めしています。「うちの家族はほとんどソファの上にいます」というのであれば、思い切って予算の7割くらいをソファにかけてしまってもいいですよね。スペースもちょっと広くして。ダイニングはご飯を食べるだけというのであれば、コンパクトでもいいと思うのです。

逆に、とにかく家族みんなほとんどダイニングにいますというのであれば、思い切ってダイニングテーブルを大きめにして、椅子も長く座っても疲れないものにして。そうするとソファは要らなくて、むしろお父さんのパーソナルチェアを置くスペースだけ確保してあげて、あとはカーペットでみんなでごろごろするほうがいいんじゃないでしょうか?スペースの取り方も予算のかけ方も、リビング派ダイニング派によって思い切りメリハリをつけてしまうのです。意外と皆さんなんとなくリビング・ダイニング・キッチンを均等に考えてしまうのです。でも均等な家ってあまりありません。だいたいどちらかに偏るので、長く居る場所に予算をかけるのがいいんじゃないのかなと思いますね。

なるほど。そういう考え方は私もなかったです。ちなみに私は全然ダイニングにはいない、リビング派ですね。家にいる時間の8割はソファでゴロゴロしています(笑)

私もそうです(笑)。その場合はソファが大きいほうがいいですよね。

自宅ではモルテーニのソファを買ったのですが、めちゃくちゃいいです。あんなに寝られるソファ初めてで。

よく床に座っちゃってソファはあまり使いませんというご家族もいらっしゃいますよね。それはソファの選び方を間違っているんですよ。そのご家族は足を伸ばしたり、ゴロゴロしたい派なのに、きちんと座らないといけないようなソファを選んでしまっているから床に座ってしまうんだと思います。そのようなご家族は、モルテーニみたいな低くて上でごろごろできるような、床座の延長みたいなソファを選ぶべきなのです。

私はソファの選び方には3種類あると思っています。一つはゴロゴロしたい派向けで、低くて広くて床座みたいなソファ。もう一つは家族がみんなそこに集まってそれぞれのことをしてるご家族の場合には、いろいろな方向から座れる大きめのソファ。もう一つはお客様がよくいらして、いわゆる応接室みたいにきちんと座ることが多い、あるいはきちんと座っているほうが好きというご家庭は、ちょっと奥行きも浅めで座面の高さもあまり低くなくてカチッとした感じのソファ。ソファによって過ごし方が変わってきますし、どう過ごすかによってソファを選ばないと、ソファに寄りかかって床に座るみたいな形になっちゃうのかなと思いますね。

-設計事務所と工務店の違いって何?

お客様が家を建てるとなった時に相談する先として、ハウスメーカー、設計事務所、そして私たち工務店の大きく分けて3つの入り口があるかと思うのですが、設計事務所と工務店の違いって何だと思いますか?

モダンリビングの企画の中で工務店によって質の高い設計・施工がなされ、デザインセンスに優れた日本各地の住宅を認定する「ハイクオリティビルド」というものがあるのですが、何故それを始めようかと思ったかというと、やはり工務店さんの設計施工のレベルがものすごく上がっていることに気がついたからなんです。モダンリビングは基本的に設計事務所とやり取りをして取材する物件を探しているので、あまり工務店が設計した物件を目にする機会が少なかったのですが、「建築知識ビルダーズ」編集長の木藤さんにいろいろ紹介していただいて、拝見していくうちに、「工務店はこんなに設計施工のレベルがあがっているんだ」と驚きました。でも、それを発信する場所って少ないですよね。モダンリビングの読者の方でも必ずしも設計事務所に頼みたいと思っているわけではなく、いい家を建てたい、と思っていらっしゃるわけで、そういう方たちにも目を留めて頂きたいなと思って「ハイクオリティビルド」という認定制度を始めました。

もちろんすべてにメリットデメリットはあると思うのですが、設計施工が一体になっていることによってのメリットは大きいですよね。時間は短縮できるし、コストパフォーマンスも高いですし、お客様にしてみればひとつの窓口で話ができるというメリットもあると思います。

設計事務所に関していうと、たくさん数をこなしているところはそれなりのノウハウの蓄積があるのですが、あまり数をこなせてないところは知見も低いわけで、そこは選ぶ側からすると難しいところだなと思いますね。

ただ、デザインのことに関していうと、工務店の場合にはこういう風に建てるからこういうデザインという発想になりがち。設計事務所の場合、まずはデザイン から入っていく。デザインから入っていくからこそ「それは無理でしょ」みたいなこともあれば、「ギリギリだけど行ける」というような部分もあったりして、アプローチの仕方の違いがあると思います。

もしデザイン的に何かオリジナリティがあるものとか、デザインが勝っているような物件をイメージしていらっしゃるなら設計事務所に行かれた方が、意思の疎通が取れるんじゃないかなと思います。そうではなくて、ものすごく特別なデザインじゃなくてもいいけど、ある程度デザインもかっこよくて施工もしてくれるところと考えると、タイコーさんのような工務店さんを選ばれたほうが、おそらくコスト面や時間的なこと、いろいろな意味で話は早いんじゃないかなと思いますね。

もう一つ言えるのは、直接工務店とやり取りをするという中で、お施主様がバンバン物を言える方ならいいのですが、そういうことは苦手という方もいらっしゃいますよね。設計事務所は施主様側に立ってくれるので、施主と施工工務店の間に入って交渉したり、あるいはバッファーになってくれたりする。それを考えると、直接はなかなか言いづらいみたいなお施主様は、設計事務所に間に入ってもらうことによってやり取りがスムーズにいくということもあるんじゃないのかなと思います。

ハウスメーカーに関していうと、もちろんハウスメーカーのいいところもたくさんありますが、基本的には工業化住宅なので工場で作ったものを組み立てていきます。ハウスメーカーと設計事務所の決定的な一番大きな違いはサッシにあると思っています。撮影をするとよく分かるのですが、ハウスメーカーの家のサッシは断熱性能などさまざまな基準をクリアしないといけない分、とても枠が太い印象です。デザインに比重を置くのであれば、初めからハウスメーカーや工務店と話をするとなかなか合わないかもしれません。ただ、東京のような大都市の場合、土地を探すのに条件付きでないといい土地は手に入れられないということもあります。そこはすごく難しいところだなと思います。

それから設計事務所は基本的に時間がかかります。家をつくっていく時間を楽しめる方はいいですが、そんなに時間は割けないし、早く建てたいという方は設計事務所向きではないと思います。

メリットデメリットをよくわかった上で選ぶこと。そして、設計事務所にしても工務店にしても、会社によって能力の差が大きいので、そこを見極めることが重要ですね。「見極める」には雑誌やホームページ、SNSくらいしかないのですが、多くの方が家づくりは一生に一回のことですので、結婚と同じくらいの気合で選んでいただきたいなと思います。

-2030年の住宅はどうなっている?

2030年、住宅は今と比べてだいぶ変わると思うのですが、どのような感じになっていると思われますか?

ますます二極化すると思います。ひとつの流れとしては都市に住む人たちが増え、都市の家は広さが取れないのでコンパクトになっていかざるを得ない。今でも少子高齢化によって家族構成も少なくなり、「住まい」はそれほど広い場所ではなくなってきています。ただ、コンパクトだけれども快適性は求めるわけで、面積に頼らない快適性というのをどう作っていくか、動線や位置関係など、今よりももっと密度が高くなっていくんじゃないかなと思います。

もう一つは「多拠点」という暮らし方が増えるのではないかということ。やはり人によっては二拠点もしくは多拠点で暮らすという選択肢を持つ人が増えていくだろうと思います。都市の家がコンパクトになればなるほど、やはり余裕があると、それ以外の場所、例えば自然の豊かな場所に、別荘ではなくてここも家、あそこも家、というような暮らし方がますます増えていくだろうなと。一番大きいのはテレワークが今後増えていくだろうということ。今はモバイルがあればどこでも仕事ができるようになってきていますよね。ここ5年くらいで急激にIT化が進んでいるので、仕事によっては住む場所を限定されない方が多くなってきていると思います。つまり多拠点で住まいを持つという可能性が高くなっているのです。そうなると、都内で小さな家を建てるより、田舎に同じ予算でもっと広い家、あるいは自分の趣味が楽しめるような家を建てようと考える人は当然出て来ますよね。その二極化が進むんじゃないかなと思います。

もちろんパッシブとか、設備もどんどん変わっていきますし、ますます高機能、高性能になっていくと思うのですが、人の暮らし方ということを考えたときに、今までは仕事があって、会社の近くに住まないと、という常識が変わってくるのではないのかなと。

多拠点にならないまでも、家で仕事をするとか、会社以外で仕事をするとか、そういう人達がどんどん増えてくると思います。そうすると、家がオフィスになるかもしれませんし、家にいる時間が長くなりますよね。今まで家にいる時間が少なかった人達が家にいる時間が長くなれば、家をもっと快適にしよう、もっとお金をかけよう、と考えるようになり、家具一つにしても座っている時間が長ければこの椅子ももう少しいいものにしようかなと思うようになりますよね。テレワークや働き方改革が、実は暮らしそのものを大きく変えるきっかけになるんじゃないのかなと思っています。

仰る通りですね。どのように変わっていくのか楽しみですね。