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中瀬 由子なかせ ゆうこ

タイコーハウジングコア 設計士

設計事務所等(別荘・マンション・住宅・店舗の設計)を経て2007年タイコーハウジングコアに入社。10年前にビレッタ(タイコーの定期借地権型分譲住宅)の街に移り住む。ウッドデッキや庭での生活で感じた事、子供の成長と共に家の使い方が変わっていく事など、間取りだけでなく色んな実体験をもとにリアルな住まいのカタチを提案する。「Vision House LIFE」日本エコハウス大賞2022奨励賞受賞。趣味は料理・BBQ・キャンプ・釣りなど。自然の中でのんびり過ごすことや、人とわいわい楽しめることが好き。

取材:2023年2月9日

※記載の情報は取材時のものです。

聞き手:
タイコー 羽柴 仁九郎
語り手:
中瀬 由子

無理せずラフに、『当たり前』のことを自然にこなせるお家をご提案したい

デザインの方向性・バランスについて

さてさて、中瀬さんの考える建築について色々聞いていきたいと思います。
中瀬さんの設計には堅実さと茶目っ気が共存しているように思います。そのバランスはどのようにして生まれているのか教えていただけますか。

私が一度に色んなことを考えるのが苦手なので、一度与えられた要望・問題などを頭の中で分解していきます。「再構築」が設計の軸となっているかもしれません。
人と話をすることが大好きなので、お施主様との会話の中で行間を拾って遊ぶようにデザインをしています(笑)

「こうなのかな?〇〇だったりして~」という視点でお話をさせていただき、ご要望の中の「根っこ」の部分を再発見していきます。ヒアリング時に単語としてのウォークスルーやアイランドキッチンなど具体的なご要望をみなさま仰ってくださいますが、本当にそれが目的ではないことが多いです。そんなお話の中で「もの」と「こと」を具体化していくので間取りやデザインがいろんな方向に動いていくのだと思います。

話し合いの中でしか建築は作れない・・・。
音楽で言えばジャズっぽいね?ジャムセッションのようなその場での即興性が持ち味なのかも(笑)

皆さんヒアリング時のご要望がギッシリ詰め込まれすぎですね。
土地にも限りがありますのでなかなかすべてを叶えることは難しいです。
もちろん真面目に設計に取り組ませていただいていますが、敢えてポッカリ抜いてみたり別の物(家具や家電)で補ったりしてお住まいになられる方の「その人らしさ」を表現していければなと思っています。

確かに、中瀬さんの設計にはその家に住まう方のキャラクター性が反映されているように思います。いい意味で「家族の色」がある家になっています。
どことなくキリッとした方にはキチっとした家。ゆるりとした方にはふにゅりとした家(笑)
提案段階でもプランの中に、お住まい後の姿がJOJOのスタンドみたいにゆらりと動いているようで面白いです。

僕も建築とは関係ないですが家づくりで大切にしているものがあります。それはユーモア。建築はとても重い責任を担う作業ですが、予算や考え方のギャップなど、ちょっとシリアスな場面もあったりするので、だからこそユーモアはいつも必要だと思っています。
せっかくの楽しい場面なのに緊張しっぱなしは、切ないですよね(笑)
ポジティブに笑えるようなプレゼンはいいですね。タイコーが目指すのは、わかりやすいエンターテイメントとしてのアーキテクトなので。
他にも設計する中で意識されていることはありますか?

設計する上で意識すること

「線」ですね。存在しないところに線を書き、存在する線を消す。くっきりとした線からぼやっとした線、ちぎれた線まで色々ありますが、空間を区切りすぎない曖昧な線を引くのも面白いです。縦なら床から天井まで繋がる必要もないですし、構造じゃなくたってカーテンのような布でもいいですよね。横なら壁に突き刺さっていても、繰りぬいていてもいい。光や音ですら線の一部だと感じます。

神社の鳥居みたいに、ただの線で空間領域を無意識に認識して分けれるのはすごく日本人的な感覚な気がします。そうしてできた曖昧な「からっぽの空間」に美を見出しその時々で楽しむ、ゆらゆらしたライフスタイル。これが本来の日本の美学だと思います。
みなさんはっきりと自覚されていませんが、豊かさをモノの所有とは違うところに求め始めています。住まうことを通してどれだけその「気づき」をつくっていけるかがこれからの設計には大切だと思っています。その気づきが何かに転換され、新しい状況をつくっていくところに本来の建築デザインの意味があると思います。

簡単に言えば暖かい家→服を一枚脱ぐ→大の字でストレッチしてみる→ぐっすり寝る→早起きしてちょっとコーヒーを挽いてみる→ふと視線を庭に移すと花が・・・みたいな動きや思考の循環。

あとはただなんとなく素敵なだけで終わらせたくはありません。住んでいる人にしかわからない「秘密」を持つ、スペシャルな家ってドキドキワクワクしませんか?全部が全部明らかにならなくてもいい。わからないから惹かれていくんですよね。空間やしつらえられた表現でお客様はそこに込められたメッセージを読み解いたり膨らませたりする・・・。
茶道で言う「見立て」みたいなものですね。その空間がストーリーとなって、どれだけたくさんのイメージを受け手の脳内に立ち上がれるのかが勝負ですね(笑)

言われてみれば、『Vision House LIFE』では中瀬さんの設計思想が存分に発揮されていると思います。言わずもがな、ゴーギャンの大地やルイス・バラガンのようなピンクの外壁。
玄関に入って目の前に広がる空間を見て、皆さんが心の中で何を見立てるのか楽しみです。僕は春を感じましたが(笑)

「めんどくさい」ことを価値のあるものに

早くみなさんの反応が見たいです(笑)
でも、やり過ぎはダメですね。家で過ごすということは、朝起きて何も考えず、流れるように動きがつながることが必要だと思うんです。だから意識的にこのLIFEでは住まうことの中心である「食」をさまざまなタイミングで感じられるようにプランニング、コーディネートをさせていただきました。「あ、今日は外で食べよう!」「タープをはろう!」なんていう心の動きをイメージして、建築の中で匂いや味を感じていただきたいです(笑)
すごく不思議なことに、人はめんどくさいことを避けますが、一方わざわざめんどくさいことをしたいという一面も持っています。どうやらその瞬間のわずかなテンションの違いで引き起こされるようです。そのめんどくささを、住み手がわざわざ楽しんでやりたくなるような仕組みやデザインを考えていきたいです。「めんどくさい」が価値になるような・・・

人類の「めんどくさい」との闘いは決して終わることはありませんからね(笑)

「Vision House LIFE」を通して新しい挑戦を

話は変わりますが新しいチャレンジというと、LIFEのLDKには240㎜角の8角形の国産ヒノキ柱が天井までおでんの串のように通っています。また「アート」についても有名な芸術家の作品を買うのではなく、建築の延長線として、設計者や職人による「アーツ&クラフツ」を取り組んでみました。新しい挑戦や変化には勇気が必要ですが、前を向いて集中するのは楽しいですね。

僕は家づくりだけでなく会社経営それ自体もデザインと一緒で、挑戦や革新の連続の上にあると思っています。突き進むのは楽しいです(笑)

新しいことに挑戦することによって、今までとは違う自分に出会えますよね。最初に新モデルハウスの社内コンペの話を聞いた時は大変そうだなと思いましたが、やってみたらやっぱり楽しかったです。
住宅の設計士が言うのも変ですが、私は暮らしを120%楽しむには、「家」だけでは足りないと考えています。服であれば「着たい」、車であれば「乗りたい」。では家は・・・?「住みたい」ではないですよね?「座りたい」「料理したい」「ご飯を食べたい」「お風呂に入りたい」「寝たい」など、日常の連続した欲求。これが「住みたい」の正体だと思っています。
それを満たすためには家だけでなく家具や家電、アクティビティなどにも設計士はもっと目を向けるべきですね。それが無い暮らしなんて現実ではあり得ないので。

お家で過ごす時間が有意義なものになるように

中瀬さんと言えばプライベートでも「食」への強いこだわりを感じます。

やっぱり暮らしの中心に食はあるので、ここは特に・・・特に大切ですよね。同じ料理でもいつどこで、どのように誰と食べるのかで全く味わいも変わってきます。
私の家はリビングからウッドデッキと庭にすぐ繋がる動線なんですが、間取りだけじゃなくて、やっぱりそこに「ふらふらと出る理由」すなわち「場」が存在するかどうかが、設けた空間に対しての使用頻度や有意義な使い方に直結していると思っています。

そこは間取りや建築・庭や植物だけじゃなくってその隙間を埋めるアウトドアグッズや家電のようなギア、それを一緒につかう人との場を設けるためのコミュニティデザインに素直に頼る必要がありますよね。当然その知識も必要です。
キャンプやグランピング、サウナはまだまだブームですが、子供連れでわざわざ車に乗っていくのは大変なので、都市の家でもできるスローな暮らしをリアルに表現してきたいです。

間取りもギアも万全の準備をしておきつつ、何もしないことを楽しむ家っていう贅沢な裏切り方もあったりして、それもいいよね。 
家を半分開いて暮らしを大きく広げてみる。いい感じ。

無理せずラフに、『当たり前』のことを自然にこなせるお家をご提案したいですね。

社内コンペ「LIFE」中瀬案

MUSIC FOR THIS TALK

Osaka Blues

by The Dave Brubeck Quartet

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Tank!

by SEATBELTS

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Chameleon

by Herbie Hancock

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