Long-life

三浦 祐成みうら ゆうせい

株式会社新建新聞社代表取締役社長

1972年山形県生まれ、京都育ち。信州大学卒業後は住宅、建設、危機管理業界向けの専門メディアを発行する新建新聞社に入社。新建ハウジング編集長を経て現職。ポリシーは「変えよう!ニッポンの家づくり」。「住宅産業大予測」シリーズなど執筆多数。住宅業界向け・生活者向け講演多数。

取材:2023年10月24日

※記載の情報は取材時のものです。

聞き手:
タイコー 羽柴 仁九郎
語り手:
三浦 祐成社長

日本の家づくりを変えていくためにメディアができることを考え続ける

本日は株式会社新建新聞社の三浦社長にお越しいただきました。
いわゆるマスコミのお仕事をされており、いつも住宅業界をあらゆる角度から鋭い切り口で見ていらっしゃる印象があります。
まずは「新建新聞社」が一体どんなことをしているのかをお伺いしても良いですか。

簡単に言うと、専門メディアに特化している会社です。今80名ほどいるスタッフが本社の長野と東京に分散しています。
自分たちのことを社内では「インフラメディア」と呼んでおり、今後もインフラに関わる専門媒体を出し続けていきたいと思っています。住宅はその中のひとつ。他にも建設の専門紙を野県内でつくっていて、今は全国展開のための準備をしているところです。またマニアックなのですが、危機管理分野の専門媒体もオンラインで発行しています。住宅も建設、危機管理も社会のインフラ。社会のインフラをより良くするという観点で社会に貢献できればなと思っています。

社会をどれだけ良くできるのか、というところでしか今後メディア企業、特に専門メディアは生き残っていけないのではないかなと思っています。

専門誌といえば衣食住、車やファッションを取り扱うものは多く見かけますが、ここまで特化した内容を扱うのは珍しいですよね。大きな括り「インフラ」という点では一緒ですが、いろんな業界をまたいで取り扱ってらっしゃいます。隣の業界のことなんてきっと知らない人が多いですからね。僕も建設について知らないし。

事業戦略的な話をすると「ニッチでメジャーになる」と社内で言っています。
例えば『新建ハウジング』は住宅の専門メディアではあるけれど、工務店さんしか取材しない・記事にしないというニッチさ(笑)ハウスメーカーやパワービルダーは相手にしていません。

工務店目線の情報媒体をつくる理由

本当にニッチだと思います(笑)
なぜハウスメーカーなどは含めず、工務店だけに絞るのですか?

『新建ハウジング』を立ち上げたのは阪神淡路大震災があった年でした。先代がボランティアを熱心にするタイプの経営者。地震の状況を見たときに風評も含めて「木造住宅はダメ」だと言われていました。ダメと言い切るのはどうなのか、メディアにできることはないのかと立ち上げたのが『新建ハウジング』だったみたいです。

当時僕は入社1年目で、しばらくボランティア活動に参加していました。最初は何もわかっていませんでしたが1年ほどやっていくと、確かに木造住宅への批判によって数々の工務店さんが衰退していくのはダメだなという風に思うようになりましたね。そこからハウスメーカーなどは追わずに工務店さんの目線でこの媒体をつくっていこうという方針を固めました。だから、ボランティアで現場を知ったことがきっかけですね。

そんな経緯があっただなんて知らなかったです。
耐震構法SE構法も阪神淡路大震災がきっかけで法人化されています。未然に防げるのが一番ですが、やはり災害や事故が「より良い社会・生活への変化」の大きなきっかけになります。

それにしても本当に様々なことをされていますよね。これも新建新聞社さんの特徴かなと思いますが、今後はどんな媒体で、業界それともエンドユーザーのどちらに主軸をおいて発信していくのか気になります。

うちのバリュー(基本的価値観)は「専門紙ベンチャー」です。ベンチャー企業なので、なんでもやる。なので、ありとあらゆる発信にチャレンジしています。ただ、「リアル」に勝るものはありませんから、業界向けであるならばもっとリアルなコミュニケーションをしていきたいと思っています。すでに「工務店未来会議」といった羽柴社長にも登壇頂いた大きなリアルイベントも開催していますし、視察やサロン的な場にも取り組み始めています。今後は業界内で様々なコミュニケーションをしていきつつ、最終的には本丸であるエンドユーザー、消費者に僕たちが良いと思っている家づくりの情報を届けたいですね。

消費者向けの発信は実験段階で、色々な企業さんとコラボレーションして挑戦していることもあります。例えばYKKAPさんと一緒に『だん』という高断熱住宅とそこでの暮らしに特化した媒体をつくっています。「こんな家づくりって良いよね」と業界に向けて旗を掲げ、集まってくれた企業と一緒に消費者へ「こんな家づくりはどうですか?」と提案する流れを生み出していきたい。僕たちが大企業であれば自社だけで情報発信することもできると思いますが、そうではないので業界の企業とタッグを組み、仲間と一緒に消費者へ情報を届けていきたいなと思っています。

『だん』は僕も読ませていただいておりまして、本当に断熱のことばかり書かれていて面白いです。
これから新たな媒体を増やしていくかと思いますが、どんなジャンルを取り扱うことになりそうですか?

実際に今走り出している企画があって上手くいくかまだ分かりませんが「家づくりの教科書」をつくりたいと思っています。

教科書?

飾りつけされていない情報を素直に伝えたい

もちろん「性能」がメインコンテンツになるのですが、例えば大学の先生や工務店の実務者の方、色んな専門家にコンテンツを持ち寄ってもらおうかなと思っています。地味だけど大事なことが書いてある。工務店で働くみなさんが消費者に安心して見せることができるような媒体にしていきたいです。流行りのYouTubeなどで情報発信する際には、やはりオーバートークになったりだとか、過激な発言が増えてしまいます。そういうものではなくて、飾りつけされていない情報を素直に伝えたいです。

やはり過激な言葉で視聴者の心をつかむことは戦略としてあるんでしょうけど、排他的になってしまっているような気がします。本当のところは大差ないのに片方を称賛、もう片方を完全否定する発言を見かけるたびに「そこまで言わなくても・・・」とモヤモヤしていました。

白黒ハッキリ分けずに、もっとグラデーションで伝えていけたら良いなと思います。そしてレンジ(範囲)も重要ですよね。どのレンジの中で「良い」と言えるのか調整していくことが大事。レンジが狭いと差別化できて、広げ過ぎると誰にも響きません。メディアとして僕たちが良い塩梅で調整出来るのではないかなと思っています。

かなり難しいことに挑戦しますね(笑)
やっぱり家は理論で成立していますので論理的に考えるとみんな同じ答えにたどり着くはずです。要は誰がやっても同じものが生まれるということになります。僕はそこに感性を含ませていきたい。敢えて直観的につくってみる、大枠からはみ出してみる、そんなことをしていけば少しずつタイコーの色が出てくる。僕が堅い雰囲気を苦手としていることもありますが、論理だけではなく個性を持った家づくりを目指しています。一部の業界の方からはふざけているように見えるでしょうし、不純物のように思われているかもしれませんが・・・(笑)

新建ハウジング主催『工務店未来会議』に代表羽柴も参加しました

なるほど。
論理的に考えるという点で言うと、例えばパッシブデザインって、きちんとやるほど1つの解に収斂していく可能性がありますよね。

本当にその通りだと思うのですが、それでも「そうじゃない!」と思ってしまうんですよね。それでは面白くない。

「そうじゃない」と思ってしまうところにすごく興味が湧きますね。
昔から天邪鬼なんですか?

昔からですね(笑)
みんなが賛成するということは、この判断によって失敗すれば共倒れ。みんな全滅してしまうんじゃないかと恐怖感があります。やはり1人でも違った意見を持つほうが良いだろうという考えによって生み出された天邪鬼です。しばらく放っておいてもらえれば、みんなの代わりに探索しておきます。

すごく大事なことだと思います。僕や当社は発信をする側ですが、発信によって業界全体が同調してしまう流れが生まれることもある。「みんな同じ」解になっていき、ビジネス的に独自性がなくなっていく場合もあると思います。個性を設計に落とし込む作業って今の時代、逆に難しくなってきているのではないかなと思うのですが、その塩梅ってどうやってとってらっしゃるのでしょうか。

中小企業なので比較的やりやすいと思います。やはり工務店の社長ってキャラが強いじゃないですか?

そのキャラクターっていうのは社員さんも尊重してくれているのですか?

「また言ってる」くらいに思われていると思いますよ(笑)
でも僕ってあまり的は外さないんですよ。勘はすこぶる良いので、結果が出れば「ほれ、見たことか」と社員にドヤ顔を見せつけています(笑)

今の時代って若い世代の働き方・働き甲斐について考えていくと、ボトムアップの意思決定に走りがちですが、そうすると社長のキャラや想いなどが薄まる可能性があります。

最初から相談すると碌なことにはなりませんね。忖度が始まって凡庸な答えしか出せないことが多いです。反対されているだろうなと思いながらも、自分が言い出しっぺとして先導していきます。ただし、方法は一緒に考えていきます。突飛すぎるものや危険なものは止めてもらいます。3日後に言っていることが変わっていることもあるんですけどね。

それを含めて社長のキャラクター性ですね。そこが中小企業らしさですし、中小企業で働くっていうことはキャラクター性を共有するものなのかなと思います。

経営者なので戦略的なコマンドを毎年3つくらいは選択していかなければならないんですよね。僕はゲーム好きでして、昔からシミュレーションゲームをして遊んでいました。三國志なんかでは、何かしらコマンドを選んで国家を育てていかないといけません。ゲーム内では保留をすることはできませんが、リアルの世界ではコマンド(選択)を保留する経営者は少なくありませんね。

「どこに住むか」という選択

阪神淡路大震災のようにこれまで、またはこれから社会に大きな変化を与える出来事ってありますか。住宅業界にとって節目だろうというような出来事があれば教えていただきたいです。

日本は外圧もしくは災害が起こらないと変わることができない国なので、その点で言えば災害のたびに日本の家づくりは進化していると思います。阪神淡路大震災の時には「耐震性」が問われ、東日本大震災の時には「エネルギー」「断熱性」を問われ・・・。今後も災害は起きますよね。「どこに住むか」と耐震性能を含め「どんな家に住むか」が大事になります。

あとは人口減少する中で都市や街に変化が起きるかなと。その中で工務店さんがどう生きていくのか。どういう家をつくっていくのか。その中には空き家問題をどのように解決していくのかっていうことも含まれますが、都市計画の部分も気になります。
住宅業界にとって節目になる大きな変化は人口減少で、これ以上大きな変化はないのではないかなと思っています。

イギリスなどのいろんな人口統計では減っていく一方だとか言っていたのに逆に増えたわ!ということもあるじゃないですか。人口なんて論理的に予測できるはずなのに(笑)増える可能性ってないんですか?

ありますよ。これからは日本全国一律の話をしても仕方がなくて、エリアごとにかなり変わっていくと思います。とあるエリアでは人口が増える一方で、すごく減るエリアもあり、横ばいのエリアも、といった三極にわかれていくのではないかなと思っています。工務店さんはその三極のうちのどこでどう戦っていくのかがカギになるのではないかなと思います。
人口が増えるエリアというのは人気なエリアで、大阪で言えば北摂でしょうか。地価が上がっているという話も聞きます

大阪の中ですら一律ではないわけですからね。

デザインは「強・用・美」に整理できる

三浦社長の記事に度々出てくる「強・用・美」について、お客様向けに少し噛み砕いて説明していただけませんか。

建築の教科書の1ページ目によく書かれていたのが「強・用・美」で、ウィトルウィウスの言葉です。僕はこの「強」を性能、「用」を使い勝手、「美」を美しさや感性のことだと翻訳しています。意訳であるとは思いますが、デザインって結局その3つに整理できるのではないかなと思っていて、よく引用しています。

「強」=性能は、先ほどの災害の話もあってベースとしてすべての建物が兼ね備えておくべきものだと思っています。「強」は無条件に必須であるものですね。
「美」も個人に合わせすぎると崩れていきます。究極を言うと、痛車や改造車でもかっこいいと思う人がいるわけで、それは本人にとっては良い物でも、再販価値があるとは言い難いですまたは街の景観を見苦しくするものかもしれない。だから「美」というものはある一定の普遍性がないといけないと思います。けれど、それを求めすぎるとすべて同じ家になってしまいます。だから先程羽柴さんも仰っていた通り、その会社と施主と社会の価値観がうまくバランスよくとれた「美」というものがあるのではないかなと思っています。

大変共感できますね。僕の場合は「真・善・美」。すごく似ている考え方だなと思っています。タイコーの新しいVISIONは「真・善・美のある家づくりで日本とともに歩む」なのですが「美」は一番あやふやな価値観ですよね。

※真:知性・論理、善:倫理・意志、美:美意識・感性

ここがあやふやで不完全であることが面白いなと思っています。何前年と昔からプロが追求してきた「美」はなぜ統一されないのか。人は何故それを見て美しいと思うのか。そこに関してはまだ答えがありません。なんて哲学的なんだと思います。それを売っていますからね、我々は(笑)

例えば我々が和というジャンルに挑戦しようとしてみます。都市型パッシブデザインって光を取り込むために天井を高くとって、窓を大きくとってみる。すると一般的な和のデザインのイメージである平屋で天井は低く、庇をたっぷり出して・・・なんてものが似合わないのですよ。ファッションでも今は和服を着ている人は少ないですし、個性を見いだす多種多様なものが多くなってきています。だから現代に即した和のスタイルがあるはずだということで、春に完成したVision House LIFEをつくりました。パッシブデザインでありながら、僕たちがやりたいと思っているブランディングに即応した和をつくらないと、都市部で家を建てる僕たちに似合う和が存在しません(笑)それならタイコーっぽいと思わせる和を用意しなきゃ。

面白いですね。「カレーうどん」でいいと思います。カレーうどんってある人からすると和食、ある人からするとインド料理と認識されているかもしれない。完全にどっち、と言い切れない料理かなと思います。ただ出汁が入っているから和の風味を感じ取ることができますよね。和の出汁が入っていれば、和を感じる人がいる。建築においても、和の出汁=テイスト・スタイルが入ることで居心地がより良くなったり「なんかいいな」っていう気持ちになれるのであれば、それで良いんじゃないかなとも思います。

匂わせる程度ってことですね(笑)
タイコーは「強くて快適でちょっとかっこいい家づくり」というコンセプトを掲げていますが、すべては住宅の資産価値が続いていってほしいなという想いでやっております。
実際住宅の耐用年数はこれから長くなっていくと思いますか?

住宅を金融商品として捉える

長くなると思いますよ。ただこれは日本がどこまで貧乏になっていくのかという話と、人口が増えて資産価値が高まるエリアもあるのはあるので、どこまで不動産の資産価値が高まっていくのかというところとセットではあると思うんですよね。本当は三世代、孫まで同じ家を住み繋ぐと、子の方が、さらには孫の方が生活は豊かになるのですが。

僕は三世代で住み繋ぐ例としてイタリア人がすごくわかりやすいなって思っています。イタリア人が良い服を着て、良いもの食べて、良い暮らしをしているように見えるのは家にお金を使わなくて良いような住まい方をしているから・・・あと脱税(笑)
人生を楽しんでいるひとつの極がイタリア人なのかなと思っています。イタリア人のように豊かに楽しく暮らすための方法論として、最初に良い家を建てて家を住み繋ぐことを当たり前に選択ができるようになるのが理想です。

あとはエリアにもよりますが住宅の資産価値、つまりは「住宅は金融商品にもなる」ということをいかに説いていくのか、これから貧乏になっていくので自己防衛の意味で住宅を持とうという話をするのか。
いずれにしても広義の価値と耐用年数を長く維持する「ロングライフ」が優先順位のトップにくるのではないかなとずっと思っています。

僕はお客様に最初にお伺いすることがあります。耐用年数はどのくらいのお家がほしいですか?と。35年くらいで良いという方にはタイコーで建てる必要がないことをお話させていただきます。まあ、大体はもう少し長い年数を仰いますけどね。そりゃ35年ものと50年60年の家が同じ値段で買えるわけがなくて、そこに投資するという考え方はまだ普及していません。とにかくボヤッと長くいうだけだと予算は上がるに決まっています。そこをエンドユーザーの皆様には少し自覚しておいていただきたいなと思うところではあります。2倍持つのだから2倍高くても良いじゃないか。実際に係る費用は1.1、1.2倍になっただけで、耐用年数が2倍に伸びるという話なのに何故そこがネガティブなのか。

さっき言った「教科書をつくる」というのはそこの話もちゃんと伝えたいからです。例えばリベラルアーツ大学というコンテンツは色んなリテラシーをわかりやすく説いています。どれだけ家の耐用年数を長く考えるか、どれだけそこに投資してお金をかけるかということもリテラシーの部分じゃないですか。リテラシーを身につけて頂かないとエンドユーザーの意識は変わらない。地味だけど大事なコンテンツだなと思います。リベラルアーツって基礎教養のことですが、生活についての基礎教養を伝えることができる教科書をつくっていけたらなと思っています。もちろんUA値、C値がどうのこうのという基礎教養も必要だろうけどそれはみんながやっていること。僕たちがやっていきたいのはもっと高い次元の大切なことを言いたい。一番は「家を永く使いましょう」。あと資産価値について。住宅は金融商品であるというところを伝えたい。

住宅を金融商品として考えるときに注意したいのは、金銭的に得をするというところも大事ですが、そこで営む時間自体が素敵なものになることを含めた損得が大事だということです。

学び続ける人は魅力的

タイコーでは設計士のプロデュースも試みているのですが、設計士4名の思っていることが違っているので、彼らの個性をすこしずつ外部へ発信してみようとしています。人の魅力や個々の力を最大限に発揮する工務店になるにはどうしていくべきですかね?

手前から言うと、人の価値って基本的に「学び続ける」ということから生まれてくるのではないですかね。学び続けられることが人の基本的な力ですが、だんだんと年を取るとその力が弱まっていきます。それでも学び続ける人というのは自然と力がつき魅力的にもなっていくのだと思います。逆に学びをやめた人は傲慢になり、独りよがりになっていく。学び続ければ「上には上がいる」ことがわかりますし、そこに近づきたいと努力する。その点では、一般のお客様にとっても学び続ける工務店、スタッフであるかどうかは、選択のものさしになるのではないかなと思っています。

一方で、学び続けているという点を伝えるうえでも工務店さんはもっと「人」について発信していく方が良いと思いますし、集客やマーケティングだけでなくお客さんや社会のためになることを学び続けているということが価値になると思います。パッシブデザインって光熱費をおさえたり居心地の良さなどお客様のためになったり、社会のためにもなっていますよね。

人の魅力や力というところでまとめると、お客様のためにということだけではなく、社会のためにもなるというところを学び続けられるかどうか。そこを学ぼうぜ!と言い続けられるか、スタッフさんに実践してもらえるかっていうところが経営者として問われるところだと思います。
ただこれがとても難しい。ワークライフバランスとかって言い始めると(笑)。だからそこはキャラや個性とセットで、「社長がこう言っているし自分でも学んでみようかな」って思わせるキャラとか、そういうコマンドが出せるといいなと思います。

うちのスタッフはササッと温熱計算する、スケッチアップで3Dをつくる、パワポでプレゼンをつくるというのは大体できます。それはひな形通りにやり方を教えただけで、自発的にはなかなか変わらないです。みんなができるようになっていって勝手にバージョンが切り替わっていたりすると、指示を待たずに「守破離でいうとどこまで行ったんだろうか」とか勝手に考えてくれると嬉しいですね。もっと多様化していくほうが楽しいです。僕は自分だけで決めていくのは本来好きではないですし。

少し視野を広げると、工務店さんの連携の仕方ってもっと多様化されていくはずなので、自分でスキルを身に着けて学び続けた先に、タイコーさんに属しながら他の工務店さんでの仕事を請け負うこともできますよね。そこを個人収入にする、なんてこともあるじゃないですか。

まさに目指しているところです。

芸は身を助ける。最終的には自分の生活の豊かさにまでつながっていきますから、やはり人は学び続けるべきだなと思います。

「職に就く」と書いて就職。会社に忠誠心を見せてくれると嬉しいですが、だからと言って軍隊ではないですし常識的な基準を持った中で自分がやりたいことをやってほしい。または繁忙期がありますし時間に余裕がある場合は他社から依頼がきたときにヘルプとして入れるシステムがあると良いなと思います。俺は夏しか働かない!というスタッフがいても良いと思います。冬はどうするのかと聞けば寒いのは嫌いなので沖縄で働きますとか(笑)気候や風土を学べばいろんな地域でできると思います。

いいですね。それが働くということの究極形かなと思います。働くことの自由度を高めるためにはやはり学び続ける。いろんなことを知って、学ぶことや成長することが楽しくなって、その先に自由があると思います。

社内でうまくいっていても、他社で同じことをやれるかと言われたらそうじゃないんですよね。本当に理解している人じゃないと他人に説明もできませんし、「わかったつもり」と「わかっている」は別です。それができるようになってもらったら一人前。そういう人を育てたい。

お客様の立場になったときに、そういう人が担当してくれると嬉しいですよね。マニュアル通りよりは、自分たちとの打ち合わせからも何か学ぼうとしている、より良くしようとしているというのが伝わるとお客様の満足度も変わるので、そこも含めて人の魅力かなと思います。ホスピタリティが人の魅力だと言われることもありますが、それがマニュアル上のものなのか、会社の利益向上の手法なのか、もしくは真の満足追求と向上心からのホスピタリティなのか、お客様は見抜いていると思います。

三浦社長から見たタイコーとは

僕らはパッシブデザインを一つの切り札として持っている工務店です。
三浦さんから見てタイコーはどんな会社に見えますか?

お話を伺いながら実例を見せていただきましたが、タイコーさん独自のユニークさがセンス良く表現されている会社だなと思っています。

キャッチコピーの「強くて快適でちょっとかっこいい家」の「ちょっとかっこいい」が良いですね。最初の敷居って高すぎない方が街の工務店としては良い気がしています。関西人的メンタリティもあると思いますが、豪邸紹介雑誌に掲載されているような会社には気軽に相談しづらいじゃないですか。ああいう家もつくることはできるのだけれど「ちょっとかっこいい」と謳ってお客さんの敷居を下げてあげるのは良いことだと思いますし、本当はすごくユニークな感性をもっているけれど、出し過ぎるとまたハードルが高くなってしまうので、そのセンスをオブラートに包んでおく。そして実際羽柴社長と話していくとすごくユニークな方だった!みたいな塩梅がすごく良いなと思います。

あと、ひとつのスキルを極めることはすごく大事なこと。タイコーさんはパッシブデザインの観点でひとつの到達点にきているのではないのかなと思います。

そうですね。最初パッシブデザインという言葉を聞いたときにはまだ迷っていた部分もありましたが、実測までやることでひとつの答えは出てきたかなと思います。でも本当にエリアごとに違いが出ますね。実測をしている方々のSNS上での発信を見ていると、このエリアではそんな結果になるのか!と知らない世界の話になります。答えがエリアごとに分かれるというのは当然感じますね。G3もエリアごとにやってみないと本当にやるべきなのかどうかわからないです。

そうですよね。実測をやっているからわかるリアリティを、今後の家づくりにフィードバックして改善していくことが大事です。例えばG3の家を建ててみたけどこのエリアではそこまでの性能は必要ないということがわかっただとか、そういう検証をしているのとしていない会社の格差はどんどん開いていく。そういうところもタイコーさんの強みになっていくのではないかなと思います。

2030年の家づくりについて

最後に、2030年の家づくりはどう変わっていくと思いますか?

僕が新建ハウジング編集長になった時にキャッチコピー「変えよう!日本の家づくり」を考えました。うちの媒体の理念みたいな感じです。常に「変えよう」と社内でも言っていますし、そこをコンテンツ化してきたつもりです。僕が編集部に入った頃には健康住宅・自然素材ブームが起きていました。だからウチもそこを突き詰めて取り上げたら、部数の伸びが良かったです。
ただやっていると、自然素材を使うエコハウスをどんどん建てていこうと発信していきつつも、先ほどの用=使い勝手や美=美しさ・格好良さに課題をもつ工務店さんが多かったのでデザイン・設計について問い直しました。
しかし工務店さんの課題はまだあって、例えば集客、ウェブについて、そして経営自体や人の問題も。そうやってウチの新聞は工務店さんの課題を見つけ、常に「変えよう!」と呼びかけソリューションを提供してきたつもりです。

2030年に向けては社内でも話し合っているところですが、ひとつは家づくりが変わっていくのではなくて、工務店の皆さんが変えていくしかないと思っています。今までは災害や国・行政やハウスメーカーといった「外圧」によって家づくりが変わってきましたが、これからは工務店の皆さんが変えていくことができる時代になるのではないかなと思っています。日本の家づくりの主導権を工務店のみなさんが掴んでいただきたいです。

僕たちタイコーだけが意識を変えて必死になっても意外と声は小さいですからね。工務店一丸となってひたすらみんなと一緒に主張していきたいです。方向性は多少違っても良いので、大きな流れをみんなでつくっていきたいですね。

そうですね。例えばパッシブデザインを軸にしてより良い家を当たり前にするムーブメントを工務店の皆さんが起こしていく。2030年に向けてどう変えていきたいか、変わっていきたいのかを工務店のみなさんと一緒に考えていきたいですね。ひとつに集約する必要はないと思うけれど、旗をいくつも掲げながら、その旗の周りに集まってきてくれた人と一緒にいろんな仕掛けをつくっていきたいなと思いますし、それをやることによって住宅の資産価値、パッシブデザインやリテラシーの部分など色んなことが変えられるのではないでしょうか。そういう意味では今はYouTubeなどいろんな媒体を通して変えやすくなっているのではないかなと思います。

色んな方法で発信できるからこそ、美意識について制御ができない人がトップに立つのは危ないと思います。哲学的な考え方、美意識が働いてないと独善的になってしまう気がします。声が通りやすい時代、下手なこと言えない経営者としては学ぶべき分野だと思っています。

結局年齢を重ねてから歴史や哲学を学び直す方がいるのはそういうことだと思います。若い頃は勢いでやれることがあります。それでいわゆる「成功者」になった方もいるのですが、一度原点に立ち返って、自分はこのままだとダメだと反省し学び直すことによって成長できるはずです。この業界の10年、20年は学ばずに天下をとった的な方も多い。でもそういう人の中にも歴史や哲学を学び、美意識を含め成長してらっしゃる方も実際にいますし、逆にどうしたら良いのかわかっていない方もいらっしゃいます。
そういう意味では、単に己の利益だけを考えて家づくりや住宅業界を変えていくのではなく、住宅業界の皆さんで家づくりのリベラルアーツ(基礎教養)みたいなものを持ちながら、みんなで議論しながらより善く変えていくことが理想ですね。