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前田 良まえだ りょう

タイコーアーキテクト 設計士

2007年、株式会社タイコーアーキテクトに入社。営業業務の傍ら2015年より設計業務も始める。2019年、一級建築士免許を取得。ローンのアドバイスから設計やインテリアコーディネートまで行えるのが強み。自邸「都市型パッシブの家」日本エコハウス大賞2019 奨励賞受賞。「陽だまりの家」自立循環住宅研究アワード2020最優秀賞受賞。その他LIXILメンバーズコンテスト4年連続入賞など様々な受賞歴を持つ。趣味は株/料理/野球(子供が始めたので・・・)。

取材:2023年2月2日

※記載の情報は取材時のものです。

聞き手:
タイコー 羽柴 仁九郎
語り手:
前田 良

カテゴライズされるよりも「じゃない方」へ意識して設計する

間取りに余白を設ける

さて、前田君に設計のことをいろいろ聞いていきたいと思います。
前田君はいつも新しさを探求しながら設計をしているイメージがあるけれど・・・

良く皆さんに攻めてるって言われますが、設計デザインって僕にとっては特別なことではなく、日常の暮らしを豊かにすることがベースにあるので、実は至って普通のことを考えているだけなんです。ただプランの中にもあえて余白のようなものは残していきたいと思っています。どのようにそこが変化していくのか、時を重ねた可能性がその家の魅力なのかな~と思います。
キッチンは「調理」、寝室は「就寝」といったように使用方法が決まっている空間なのですが、決まった名前のない場所に可能性や多様性を感じています。寝ころべるくらいの広さで造作した窓際ベンチ、ちょっと幅の広い廊下とか。みなさん真面目なので名前がないと何をしていいのか迷ってイメージしにくいという方が多いですね(笑) 

僕はもちろん空間をイメージして設計していきますが、ちょっとアナログな感覚で、言葉でもその場所を表現したりします。単語として日本語に無い場合も多いのですが、そんなあいまいな場所の方が案外生活すると良い空間になっていたりします。
例えばショールーム「Room」で作ったサンルームみたいな空間。個人的には「トトロの寝床」と僕の中では呼んでいます。僕が住んだらきっと緑でもしゃもしゃにして、パーソナルチェアを置いて昼寝すると思います。家の中で一番暖かいし、明るい、まさに・・・な場所です。
そう言われると、テーブルを片づけて寝転がりたくなりますよね?名前って不思議ですよね(笑)

余白が住まい手の新たな居場所へ

間取りにおけるそれぞれの場所っていうのは、どう使っても皆さんの自由だし、ライフスタイルの変化に応じてどんどん用途は変わってくるのが普通だと僕は思っています。
スマホやタブレットが普及し、動画配信サイトを利用するようになってからたった10年くらいで、大型TVも一気に見る回数が減りましたよね?その前にどーんとL型ソファを置くスタイルって本当に必要でしょうか(笑)

ここ10年の住宅の窓の断熱性能の進化も驚きですね。
他にもガス衣類乾燥機や海外製食洗器、EV車などトレンド商品は家づくりでもたくさんありますが、テクノロジーの進化で暮らしの常識はどんどん変わってきます。今あるすべての習慣やトレンドは、技術が変わっていく中での「過渡的」なものでしかなく、「絶対的」なものではない。そんな忍び寄ってくる未来を感じ取りつつちょっとだけナナメから見て、その時々で皆さんひとりひとりが工夫して住みこなしてほしいです。だからこそやっぱり家の間取りには余白や作りこみすぎない余裕が必要かな~と思います。

名前は付けてもそこはゆだねちゃうんやね(笑)
でも実際、お住まい後に話を聞くとみんな思い思いに暮らしていただけてるよね。 

ご要望をヒアリングしていると「家・住まい」の事にちょっと視野が集中しすぎている事が多いですね。もうちょっと目の回りをほぐして、遠くにピントを合わせるほうが家づくりに面白いヒントがあったりします。

僕は家だけじゃなくって世の中のいろんなことにインスピレーションをもらいます。
他の産業で起こったことはこれから住宅業界でおこる可能性も高いですし、だから常に新鮮な目を向けて物事を知ることを楽しんでいます。ある種ひねくれているところがあるので、そういうのは得意ですね(笑)

パンクロックやね~(笑)
意識してズレる。確かに時代の空気はどんどん変わっていくよね。設計デザインも営業も肌で最前線を感じてないと、あっという間に勘が鈍るからな~。

そうですね。休みの時もなにかしら建築のことは考えてしまいますよね。感じながら考える・・・
どうにも家づくりが好きなんでしょうね(笑)

プランニングの際に意識すること

僕は設計するときは特に「面」をすごく意識してプランニングしています。6面から構成される立方体のどの面を異化させるか、それとも同化させるかを考える作業が楽しいところではあります。都市の限られた敷地でパッシブデザインをする以上、シンプルな1個の箱で家を設計することはまず無理なので大小異なった複数の箱を組み合わせるのですが、その重なりの造形のパターンにまずこだわります。

しっくりとくるまで線を加えたり消したり、立体にしてからは内観の面を同化、異化させて箱の内外を品定めします。この工程で何度も手を加え過ぎないことが美しさの秘訣かなと最近感じています。手を加え過ぎると本質的なその土地ならではのプリミティブ感が減っちゃいますね。

よくプランっていうけど、ほとんど立体で考えてるから建築って彫刻に近いよね?

そうですね。
実際パッシブデザインをしていくと、土地のポテンシャルを活かしつつ太陽に向かってカタチを削りだす作業になります。感じながら考えてカタチをつくっていく作業。そこに、お施主様のご要望や希望をのせていく。まさに「解く」という感覚ですね。
カタチそのもののデザインについては、美術館に展示されいるすごく繊細な像も美しいと感じますが、木や石のもともと持っている造形を活かして荒く形を創り出しているものとかには、より関心を持ちますね。
何か建築と通じるものがあるんでしょうかね(笑)

ちょっと話はズレますが、僕はアートやファッションと同様に、アーキテクチャーもカルチャーなのだと自信を持って言える時代にしたいと思っています。建築が産業ではなく文化になる。デザインを手掛ける自分にとっての新しい発見が、家を見て触れた人の新しい発見になる。
お客様にサプライズを提供し、喜んでいただくことが我々の大きなモチベーションに繋がります。美術館の美術品とは言いませんが、全ての設計にはこういった力が本来あると思っています。

建築のチカラか。確かに建築は文化だよね~。 
設計デザインをするときのコツみたいなものはある?

Roomの1階に設置したスクリーンで映画を観る羽柴と前田

設計デザインのコツ

設計は詰まるところ、プロセスのデザインだと思っています。家づくりのデザインを、完成した模型や3Dでそのまま見せるのでなくて、その表現・考えがうまれていく進化の過程を共有したいと考えています。でないとやはり家づくりではなく、設計士がデザインしたただの「家」になってしまうと思います。

うーん、深いね(笑)
タイコーの設計プレゼンの思想そのものやね。
僕はものすごくよくわかるけど、実際に見ないとわからないだろうな。建築はその過程そのものが一流のエンターテイメントだもの。面白さは「親近感(家づくりとの距離感)× 家づくりそのものの質の絶対値」の面積だと思ってる。ぜひすべての家づくりされる方々に一番前で主人公として体験してほしい!

あと僕はいわゆる「俺!俺!」的なプライドが低いので住宅設計の実務では世界の優れた建築からのインスピレーションを取り入れています。そこに関してはためらうことがありません(笑)
これっていう型が無いのでカメレオンみたいってよく言われます。

要は模倣上手なんやね。
僕も平気でお客さんに他社さんだったり他の設計士の手掛けた実例を見せて提案することがある。素直に良いアイデアは良いよね。そこを認めてそのデザインの本質的な意味をくみ取って、また新しいカタチにすることがプロとして必要な覚悟なんだと僕は思っています。

その反面、人々がまだ見たこともないものを常に探求し続けることも、まったく別の要素と混ぜてイノベーションを作り出すことも、タイコーのひとつのゴールであり、僕らが考える設計士の役目ですよね。タイコーの家のデザインは未来的な要素とクラシックな要素が混ざっています。このバランスが大切ですね。

縁側や沓脱石(くつぬぎいし)など 日本の建築には良い感じの名前がついている場所が結構あります。そこにやはり今、旬なアウトドア的な要素も何かしら加えて行きたいですね。ちょっと不安に感じても歴史や伝統のあるものは、大抵ユーモアとモダンな要素に対して深い包容力を持ってるので、実際にやってみるとなんとかなりますよね。

論理的にナナメに見る思考。前田流やね(笑)

まあ、そもそもモノづくりに常識なんてないですけどね。今の時代はいくらでもジャンルが生まれていきますから。でもカテゴライズされたら消費されてしまうという気はします。だからちょっとだけ「じゃない方」へ意識してつま先は向けていきたいですね。

そうやね。
タイコーはエンドユーザーから見ると工務店カテゴリでは、「パッシブデザイン系」「高気密高断熱系」なのかなと思いますが、そう思われれば思われるほど・・・・いい意味でちょっと違う方に裏切りたくなるよね~(笑)

まさに・・・(笑)

建築の専門店から、最先端の暮らし・エンターメントを集めたセレクトショップを目指したいものです。

やりましょう!(笑)
タイコーの伝統は、変わり続ける事ですから。

社内コンペ「LIFE」前田案

MUSIC FOR THIS TALK

Lust For Life

by Iggy Pop

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Blitzkrieg Bop

by Ramones

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Psycho Killer

by Talking Heads

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