Passive Design

伊岐見 恭子いきみ きょうこ

(株)ホームランディック一級建築士事務所 代表取締役社長

1983年小牧市に生まれる。一級建築士の資格を取得し、当社で自ら設計を行っている。「女性建築士とつくる、暮らしをデザインする家づくり」をコンセプトに注文住宅を土地取得から戸建て建築まで、トータルで住まい作りをサポートする。YouTubeのほかInstagramなどのSNS発信に力を入れており、若い世代の家づくりユーザーに絶大な人気を誇る。

取材:2022年9月8日

※記載の情報は取材時のものです。

聞き手:
タイコー 羽柴 仁九郎
語り手:
伊岐見 恭子社長

商売のための家づくりではなく、自分たちが心から建てたいと思う家をつくる

Youtubeを通してお客様に新しいアプローチを

本日は、愛知県のデザイン設計事務所ホームランディックさんの伊岐見社長に遥々伊丹市までお越しいただきました。

実はホームランディックさんのYoutubeにて弊社設計士前田の自邸ルームツアーを公開していただくことになり、今回はその取材に来ていただいたんですよね。(※動画はすでに公開されています。)
先ほど撮影の様子を見学させていただいてたのですが、ボイストレーニングなどはされているんですか?声がすごく通るからさすがだなぁと思っておりました。

いえいえ、とんでもないです(笑)
今日はよろしくお願いします。

では、最初に軽くホームランディックさんの会社体制などをお伺いしたいです。

うちは元々、不動産業から始まっています。今年で不動産部門「イキミ不動産」が創業54年、建築部門「ホームランディック」が今年で33年になります。立ち上げたのは私の父です。父は大手ゼネコン会社で現場監督をしており、RC造が得意なので昔からRC造の住宅を建てていました。10年ちょっと前に私が入社してから戸建てのデザイン住宅部門を始めました。

なるほど。ではそこから木造住宅に手を伸ばしていったみたいな感じですね。
今日は前田邸のルームツアーを撮っていただいたわけですが、最近では様々な地域の工務店さんのルームツアー撮影もされていますよね。そこの狙いをお伺いしたいです。

もともとYouTubeを始めたきっかけが、やはりコロナ禍の集客低迷。ここから先きっと集客の仕方も変わっていくだろうと思っていた矢先に、YouTubeをやってみないかとお声をかけていただきました。1本自社物件のルームツアー動画を撮ってみると、動画再生回数の伸びが意外に良くて驚きました。最初は撮影がすごく恥ずかしくて、今でもそんなにノリノリではないのですが、なんとか続けていますね(笑)

続けて何本か自社物件のルームツアーを投稿していると、だんだん反響をいただくようになってきました。ただの「やってみた」レベルじゃなくて、Youtubeがちゃんとした集客に使えるんじゃないかっていうのを、動画投稿し始めて半年から1年で実感しました。

じゃあ本格的にYouTubeに力を入れようと決めた当時は年間10棟から15棟を建築する会社だったので、月に動画を1本あげられるかどうかでした。
なかなかコンスタントにYouTubeに上げられないことが簡単に予測できました。

でもYouTubeで動画を伸ばす秘訣を聞いていくと、毎日投稿だったり毎週投稿だったり・・・ちゃんとコンスタントに動画をあげているチャンネルが評価されるんですよね。
それで毎週動画を1本あげようということになったんです。そうすると自社物件だけでは難しいので、今まで一緒に勉強してきた友人の会社の物件でルームツアーを撮ってみよう、というところから他社物件も紹介させていただくようになりました。今では全国の会社さんに「撮影にきてくれないか」とお声がけいただけるようになったので良かったなと思っています。今では自社他社含め、100棟ものルームツアー動画をアップさせていただいています。

自分たちが心から建てたいと思う家をつくりたい

なるほど。個人的な話になりますが私は動画撮影中は普段通りの自分でいられず緊張してしまうので、伊岐見社長の的確なコメントとリアクションには脱帽です(笑)
次に伊岐見社長が考えてらっしゃる家づくりにとって譲れないコンセプトについてお伺いしたいです。

商売のための家づくりではなく、自分たちが心から建てたいと思う家をつくりたいと思っています。安かろう悪かろうのお家は建てたくありませんね。デザイン性も性能性も両立し、お客様に寄り添った家のご提案を目指しています。

タイコーでも「強くて快適でちょっとかっこいい家づくり」というコンセプトを掲げているのですが、家づくりの理念やコンセプトが同じように感じて嬉しいです。
タイコーではSE構法を標準仕様としてるのですが、ホームランディックさんはSE構法を使ってみてどうですか?

SE構法によって広がるデザインの幅

良いですね。何が良いかっていうと、在来工法で耐震等級3をやってる時にデザインの限界をものすごく感じていたんです。火打ち梁が入るのも嫌だし窓がとれないっていうのも嫌、耐力壁をたくさん設けないといけないのも嫌・・・。こうなったら鉄骨造かRC造を始めないといけないんじゃないか、と迷った時期があったんです。

その時にたまたまSE構法に出会いました。木造でも鉄骨造やRC造のような設計ができるし、コストも鉄骨造やRC造に比べて抑えられるという点から、私のやりたいこととマッチしてるなと思い、急いで加盟しました。木造でもデザインを諦めなくて良いということをSE構法が教えてくれました(笑)

SE構法といえばオウシュウアカマツなどの外国産の集成材を使用していますが、現在タイコーでは国産ヒノキ材を使ったSE構法にチャレンジしているところです。材木が何産か、お客様はあまり興味をお持ちでないと思うのですが、ウッドショックや低炭素社会を意識して国産材に舵を切っていこうかなと思っています。

SE構法で材木の指定ってできるんですか?

エリアでまとめて発注しないといけないんですよね。僕が言い出しっぺで、あとはいつもお世話になっている近畿地方の工務店7社にお願いして頑張って使っていこうという話になっています。
また中部の方面でそういう動きが出てくるかもしれないので見守っていてください(笑)

性能性とデザイン性のバランス

次に性能性や快適性についてお伺いしたいのですが、愛知県は晴れの日が多くパッシブデザインに適してますよね。主に冬のことを考えながら窓の配置をしているかと思いますが、具体的にどのように工夫されてるか教えていただけますか。

まず夏は日射を遮って冬は日射を取り込むことが基本ですね。南面の日射遮蔽には十分気を付けて設計しています。窓の高さ10に対して庇は3ぐらい出してあげるとか、アウターシェードの採用をお客さんと相談していきます。全部が標準仕様ではないので躯体で庇を出したりと、お客様の予算感を見ながら打ち合わせで決めていきます。

窓を設けたら明るいし暖かくなるんですけど、外観が難しくなってくるんですよね。

そうなんですよね。
南面の外観を気にしなくていいのであればガツガツいっぱい窓を入れちゃえ~!ってなるのですが、実際そうもいかないところが多いですね・・・。

なるほど、同じくです(笑)
あと、断熱等級について国が厳しくしようと本格的に基準を上げてきていますよね。どのぐらいがちょうどいいバランスかなと考えておられますか?

HEAT20のG2レベルぐらいですかね。上を目指すことに越したことはないですが、コストパフォーマンスを考えるとG2レベルぐらいがちょうど良いところなんじゃないかなと私は思っています。
タイコーさんはもっとレベルを上げていかれるつもりなんですか?

いや~、今のところうちもG2レベルが標準なのですが・・・上級グレードとして、「G2.5」くらいのレベルを目指したいと考えています。G2じゃ足りないけど、大阪ではG3まで頑張る必要はないんじゃないかなと。

次のモデルハウスではG3レベルで建築中です。費用対効果や施工性など実際建ててみないとわからないことって多いじゃないですか。今回は上手くいくのかわからないけれども、試行錯誤しながら色々なチャレンジをしているところです。

G3レベルって都市部ではかなり難しいですよね。
付加断熱をしたりしてクリアしていったんですか?

標準仕様では内断熱に高性能グラスウール120㎜を入れているのですが、今回『LIFE』の内断熱にはスタイロフォームFG 120㎜、更に外断熱にQ1ボード61㎜を採用しています。外壁の断熱材だけで約180㎜もの厚みがあるんですよ。

自分たちで決めておいて言うのもなんですが、ちょっとやりすぎですね。あんまり断熱はてんこもりでやるものじゃないなと改めて思いました。30年先の光熱費もイメージしつつ、その地域に適した断熱性能を新たに考えていきたいと思います。

「本当にそれって造作で必要ですか?」

もう少し詳しくエクステリアやインテリアについてのお話をさせていただきたいのですが、ホームランディックさんではシンプルでかっこいい家が多いですよね。パッと見た感じでは所謂フェミニンな要素がなく、構造躯体とのバランスをよく考えられているスッキリとした外観の印象を受けました。

そしてシンプルなエクステリアのイメージとは裏腹に間取り・インテリアはすごくつくりこまれているように感じて、丁寧に計画・提案をしてらっしゃるんだろうなと思いました。コストとの兼ね合いがあるかと思うのですが、どんな風に計画してデザインを取り込んでいくのか教えていただけますか?

お家づくりには必ず予算がありますよね。私はお客様に最初「お金をかけるものは、後から変更できないものにしてください」と必ずお伝えしています。
例えば床面積や断熱材とか、建ててしまった後の変更が利かないものを優先していただきたいんですよね。キッチンや造作家具などは15年~20年でリフォームできるじゃないですか。そういったものに何百万円と予算を上乗せしていくのではなく、間取りや床面積、壁の中にお金かけていただきたい。

昔は「なんでも造作できます!」と言っていましたが、最近はお客様から依頼があっても「本当にそれって造作で必要ですか?」と聞くようにしています。
造作家具よりも洗練されたスタイリッシュな家具のほうが、使い勝手やインテリア的にも良かったり、狭小地では可変性のある家が良い場合が多いと思うんですよ。つくりつけちゃうと後で壊さないといけなくなったりするので なるべくシンプルにっていうのは気を付けてコーディネートしてます。

注文住宅=造作というイメージがあるようで、物凄く凝った造作を何度もつくってきた時代はありました(笑)
伊岐見社長が仰るように、せっかくSE構法で建てたのに間取りに融通が利かず、スケルト&インフィルの特長を活かしきれないのはもどかしいです。あと、昔に比べて家具のデザインが格段に良くなりましたよね。今はお値段の張る家具じゃなくても良いデザインのものをお手軽に買えます。
なんなら家具や照明を上手にチョイスする力が今の設計士には必要だなと思っています。今までの設計とはちょっと違う角度の意見が求められるのでないでしょうか。

あと、植栽なんかも上手に使われてるなと思ったのですが、イチオシの植物などがあれば教えてください。

植栽計画を学ぼうと仕入れ屋さんへ

実は私、植栽計画を学ぼうと思って仕入れ屋さんに伺ったことがあるんですよ。
でも、愛知県にはピンとくるものがなかったんです。私のイメージでは山にひっそりと生えている木が良かったんですよね。山の木は周りにたくさん木が生い茂ってるので、それぞれの幹が細く長く伸びています。そして上の方でチラチラと葉っぱが生えているような感じでスッキリとした印象がありました。

だけど愛知県の仕入れ先だと広い敷地にワーッと植わっていて、日当たりが良すぎるが故に横に枝や葉が広がってしまっているんです。幹も太くてこれは私のイメージではないなと諦めまして、今は信頼してるところから山で仕入れたものをチョイスしてもらってます。

植えるバランスも信頼してる植栽屋さんにお任せして、家の魅力が引き立つ配置で植えてもらっています。アオダモやヤマボウシとかがオススメですね。落葉樹でもいいんですが、幹が細くて葉も少な目、チラチラと風に揺れてくれるタイプのものがシンプルな外観に合わせやすいなと思います。

アオダモはタイコーでもよく採用していますね。
我々素人なんかが植栽を並べたら単純に遠近法で並べてしまいます。遠くに高木、近くに低木というありきたりな感じに(笑)
高木をわざと家に寄せて配置とかっていう発想はなかなか浮かびませんから、やはり植栽のことは植栽のプロに依頼するのが一番です。

個人的には興味のあるジャンルなので、自分も将来は山に行ったりしたいなと思っています(笑)

外観で気をつけたい設備の配置

次はプロ目線で設備機器のエアコン、室外機や換気扇などを外観面でどのように処理されているのかお伺いしたいです。配管するのか気にされてるとおもうんですけど そのあたりの難しいジャンルでこだわられてるところをお伺いしたいです。

道路面や外部から見えやすい部分には配管が見えないようにしたいなとは思っていますが、道路3方向に面している場合などどうしても難しいものもあります。そんな時は小屋裏エアコン・床下エアコンにするとエアコンが2台ですむので配管を好きな方向に持っていけますよ、という提案もしたりします。

チャレンジしたいインテリアテイスト

インテリアテイストについてもお伺いしたいと思います。タイコーでは今ちょうど「Vision House LIFE」というモデルハウスを建築中でして、和モダンインテリアに初めてチャレンジします。ホームランディックさんではこれからやってみたいジャンルってありますか?

まさに私も和モダン系はやってみたいと思っています。北欧モダンインテリアなどはモデルハウスやお客様のお家で取り入れさせていただいたことはあるのですが、本格的な和モダンインテリアを手掛けたことはありません。ただ、和要素が強すぎずにモダン強めの和風インテリアが私は好きですね。

わかります。
言われてみたらなんとなく和風じゃん!みたいな感じを狙いたいです。せっかく日本に住んでいるのだから、そういう和の要素を汲みつつモダンでかっこいい家のご提案ができればなと僕も思っています。

2030年、日本の家づくりは・・・

今日のお話を聞いていくと、家づくりにおいて性能とデザインのどちらかを特化させるのではなく、どちらもちょうど良いところを探るほうが豊かに暮らすことができるとお考えかと思います。タイコーでもそのバランス加減をとても重要視していますのでとても共感できるお話をたくさん聞かせていただきました。

最後に2030年、日本の家づくりはこれからどう変わっていくのかというのを予想していただいて終わりたいなと思います。

最後の最後に難しい質問(笑)
2030年まであと少しですよね。性能についてはG2レベルが最低限必要になってくるのかなと思います。先日東京都も太陽光発電義務化の条例を出していましたし、太陽光発電を採用するお家も全国的にもっと増えてくるでしょうね。

一方、間取りのほうでは1階で全部暮らせるような間取りが流行っていくのかなと勝手に思っています。キッチン・リビング・ユニットバス・寝室・ファミクロ・ランドリーまで全部ある・・・平屋じゃないんですけど1階で完結できるような間取りが流行っていくんじゃないかと思っています。

エリアは違えどお客様のニーズは同じようなものかなと思いますので、そういう間取りなんかも全国的に普及していき、スタンダードな間取りになっていくかもしれませんね。