家の話をしよう - 専門家との対談 [ロングライフ]
TALK SESSIONS
Long-life


髙倉 潤たかくら じゅん
FDM株式会社代表取締役社長
FDM株式会社代表取締役。大学卒業後、東京都内で建築設計事務所を共同主宰。2015年4月にFDMに入社し、都内と大分の2拠点で設計活動を行う。2017年に大分県に帰郷し、FDM取締役副社長に就任。2021年から現職。
取材:2025年9月30日
※記載の情報は取材時のものです。

- 聞き手:羽
- タイコー 羽柴 仁九郎
- 語り手:髙
- 髙倉 潤社長
確かなハードで心地よい暮らしを支え、住むほどに愛が深まるスローな家づくり
羽本日はFDM株式会社の髙倉社長にお越しいただきました。髙倉社長はSE構法、重量木骨の家で、こだわり抜いた家づくりをする仲間として、日頃から一緒に活動させていただいています。また、今タイコーが新たに計画している特殊な建築物、ホテルの設計をご依頼させていただいたりして、大変仲良くさせていただいております。
髙倉社長が家をどのように捉え、どんな家づくりをされているのか。また、住宅以外にこれからどんなことに挑戦していきたいかなど、ざっくばらんにお聞きしていこうと思います。よろしくお願いします。
髙よろしくお願いします。

昨日を超える提案と基本性能へのこだわり
羽ではまず、FDMさんの家づくりのこだわりを教えてください。
髙まず会社の理念は “Fundamentals for the public” 住環境における本質を追求することを挙げています。住宅に関しては、「自分たちが責任をもって提案できることを、まず確実にやる」というのが前提です。基本性能をしっかり整えた上で、より良い方法があればアップデートしていく。iPhoneのOS更新のようなイメージですね。その土台があって初めて、デザインや空間提案が成立すると考えています。
羽仕様は常にバージョンアップされているんですね。
髙はい。特に九州エリアでは、断熱やサッシ性能が軽視されてきた背景もありましたが、近年は暑さ対策の観点からも、性能の重要性が見直されています。そうした状況への一つのアンチテーゼでもあります。社内では “Beyond Yesterday” 昨日を超えようという言葉を掲げています。お客様の期待を常に超える提案をいかにできるかが、仕事への姿勢として重要だと思っています。

「スロー・アーキテクチャー」という概念
羽FDMさんが提唱されている「Slow Architecture(スロー・アーキテクチャー)」とは、どのようなものでしょうか?
髙ハードウェアとしての建物と、ソフトウェアとしての生活がある中で、快適な生活のためにはハードがしっかりしていないと、充実した生活は満たされないと思うんです。ハードとソフトが両輪で回って初めて「スロー・リビング」や「スロー・アーキテクチャー」が発生するというイメージです。
また、建物は住み続ける中で手を入れ続けなければなりません。人の手を入れ続けることで永く愛される、愛着の持てる建物を作っていこうというメッセージも込めています。あと目まぐるしい情報量の中に現代人は生きていますから、住まいの中ぐらいはスローに過ごせるようにしたいねっていう裏のメッセージもあります。
羽長い暮らしの中で風合いが出てくるような、生活そのものをハードに結びつけるということですね。それは「無限」に続くというより、「無限じゃなくて永遠なんだぜ!」というようなニュアンスでしょうか。
僕も、その「永い(ながい)」という感性がすごく好きなんです。建物が永く愛されるためには、暮らしや文化、その土地の気候風土といった、いわば「手垢のついた人間味のあるソフト」と、テクノロジーの進化による「ハード面でのバージョンアップ」。この融合が不可欠ですよね。
髙そうですね。ただ、これを言うと自社への縛りにもなります。ビジネスとして全方位ではなくなりますが、そこをキーワードとして大切にしています。そこにこだわることこそが、結果として住まい手の豊かさに繋がると信じています。

SE構法 Version 3が切り拓く木造の可能性
羽今回我々のハードの根幹である「SE構法」がVersion 3にアップデートされました。実際に使ってみていかがですか?
髙正直、完全に木造の枠を超えたなという感じがします。
平屋だったらほぼ柱だけで成立させることができます。あと4~5階建てといった「中高層」の木造ラーメン構造も作りやすくなりましたね。基本的に木造住宅では間取り先行で柱を置いていきますが、RC造のような考え方、つまり柱を先に落としてそこにインフィル(内部)を付けていくような設計が、木造でも現実的になってきました。シンプルで堅牢な躯体をつくり、その中を自由にインフィルしていく。この考え方は、これからの木造建築の可能性を大きく広げてくれると思います。
羽日本の文化である「柱」を大切にしながらも、最新のテクノロジーでその可能性を広げていく。背筋が伸びる思いですね。

パッシブデザインと大分の気候
髙パッシブデザインで家を建てると、冬でも室温がしっかり上がります。大分は大阪よりも日照条件が良いと思いますが、実際はいかがですか?
羽大分は日射条件が良いので、パッシブデザインとの相性は抜群です。ただその分、夏や中間期が結構暑くて。9月、10月、下手をすれば11月の頭くらいまでは日射の影響を受けるので、外付けブラインドなどの「日射遮蔽」をどうするかが、設計上の難しいところでもあり、面白いところですね。
あと大分だと、由布院のような寒冷地もあります。凍結対策や地域に応じた日射の取り入れ方など、エリアによって重きを置くポイントを変えています。地域ごとの風向きや日射特性を読み取り、通風や遮蔽をどう設計に落とし込むかが鍵ですね。
最近、地元の建具屋さんから「暑すぎて子供たちがグラウンドで遊べないのがかわいそう。日射遮蔽の方法を一緒に考えてくれないか」と相談されたんです。
羽住宅を飛び出して、教育現場の環境改善ですか。
髙家の中だけじゃなく、外の環境も含めてどうスローに、心地よく過ごせるか。建築の力で解決できることは、住宅の枠を超えてまだまだあると思っています。
五感に響く設計と「窓」のルール
羽性能数値が横並びになる中で、住んでからの快適さの差を生むために工夫されていることはありますか?
髙「通風」のルールは一応持っていますね。数値に出にくい部分ですが、住んでいる時のふとした充足感に繋がるのは通風じゃないかなと。近隣の方、特におじいちゃんやおばあちゃんに「ここはどっちから風が吹くか」を聞いて設計のベースにすることもあります。近隣に長く住む方の声は、設計の重要なヒントになります。
あと「五感」ですね。味覚以外はすべて住まいで感じるものです。特に「風」や「熱」は分かりやすいファクターなので、窓の付け方一つとっても、上下で窓を付けて重力換気を使ってみたり、一つの空間の中でどう空気を動かすかを常にトライアルしています。
羽設計を進める時の、間取りと窓の組み立ての順序はどうされていますか?
髙僕は中(間取り)と外(ファサード)を対比させながら決めていきます。外から見て、次また中から見て……というのを繰り返しながら整えていくのが設計作業だと教わりました。中だけの快適性だと外観が崩れるし、外だけ見ると必要なところに窓がなかったりするので、そのバランスが肝要ですね。
最近はSketchupなどのテクノロジーも進化して、昔のように模型をぐるぐる回さなくても、3D上で「とりあえず窓を開けてみる」といった検討がノリでできるようになって、楽になりましたね(笑)。

住宅・建築・運用の「トライアングル」
羽FDMさんは住宅以外にもホテルや旅館など、建築に関わることを総合的にされていますよね。
髙大分は人口こそ少ないですが、観光人口は全国でもトップクラス(別府や由布院など)です。なので、ホテルの設計から運営まで関わることが多いです。
住宅とホテル・旅館って実は相性がいいと思っていて。住宅はあらゆる建築の用途の原点。江戸時代などは家で商売をしたり、家で葬式をしたり、すべての機能が家に詰まっていました。
ホテルや旅館の本質も「快適性」です。ゲストがいかに快適に過ごすかを重視するという点では、住宅づくりと通じる部分があって面白いですね。住宅で培った感覚や思想が、ホテルや商業建築にも活きてくる。その逆もまた然りです。
羽運用までされるのは大変ですよね。
髙大変です。でも、不動産・建築・運用の「トライアングル」が中心になっている人って、実はほとんどいないんです。大手だと部署が分かれて利益が相反したりしますが、僕らのような規模だとトップダウンで、常にこの三つの間でバランスを考えられる。そこを強みにしていきたいですね。

大阪のマーケットに投じる「パンク」な一手
羽今回髙倉社長には弊社の大阪でのホテル事業について、設計から運営など色々な面でお世話になっております。髙倉社長から見て、タイコーのこの試みはどう映っていますか?
髙正直めちゃくちゃ面白いし「アウトローでパンクだなあ」と思ってますよ(笑)。大阪という巨大なマーケットなら、通常は「右に倣え」で無難に作る会社が多い。でもタイコーさんは完全に逆張りで、住宅づくりの本質である「快適性」をホテルに持ち込もうとしている。このシナジーは、他にはない強烈な原動力になるはずです。
羽ありがとうございます。
実は今日、大分から社員さんと社員旅行で大阪にお越しいただいています(笑)。
髙倉社長から見たタイコー、社員さんから見たタイコーってどんな会社なんでしょうか。
髙うちの会社にはタイコーさんのファンが多いんですよ。「タイコーさんのところに連れてってほしい!」という声が多く、今回ようやく実現できて嬉しかったです(笑)。
タイコーさんは、この重量木骨の家の中でも日本一の会社だと思っています。大阪という巨大なマーケットの中で、他にはない「アウトローでパンクな姿勢」を貫いているのがすごい。あと「当たり前をアップグレードする」という感覚。他社を見に行って「いいな」と思ったらとりあえずすぐやってみる。そのスピード感と共通言語を持っているのが素晴らしいなと思います。その積み重ねが組織を強くするんだと思います。
大分は新幹線も通っていないような場所なので、スタッフの「当たり前」の基準が凝縮された狭い世界に閉じ込められてしまいがちなんです。競合他社がこうだからこれでいいや、というまさに「右に倣え」の精神ですね。だからこそ、タイコーさんのような圧倒的な「当たり前」をスタッフに見せ、その基準を強制的にアップグレードさせることが重要だと思っています。

FDMの皆さまがFLOOR鶴見を見学中の様子
建築士から経営者、変わらない芯と広がる視点
羽髙倉社長は元々建築士で今は敏腕経営者というこの業界でもかなり珍しく、かつ僕と近いポジションにいらっしゃいます。代表になられてから、家づくりへのスタンスで変わったことはありますか?
髙実は、代表になる前の数年間は、財務や銀行回り、社内の管理体制の構築といった「地味で細々とした経営の基盤づくり」に奔走していました。ただ家づくりそのもののスタンスは、代表になる前から住宅事業部の性能や基準を僕が引いていたので、根本は変わっていません。
羽その「芯」をブレさせないことが、今のFDMさんの信頼に繋がっているんでしょうね。
髙そうですね。もし僕が代表になったからといって急に方針を変えたら、スタッフもついてこない。だから軸はブレさせず、その軸に「不動産・建築・運用」といった道理を付け足して、付加価値を乗せていくようなイメージで今は動いています。
羽 軸は守りつつ、その周辺を拡張している。
髙はい。それに最近は社内の若返りがすごいんですよ(笑)。うちの現場監督には23歳や24歳の女性スタッフがいるんですが、彼女たちは高卒で入社して5年目。今では5,000万〜6,000万円クラスのSE構法の家を、一人で完璧に作れるようになっています。彼女たちは「楽しい」と感じて自走してくれているようです。
羽23歳で!? それはすごいですね。
髙設計が楽しそう、良いものを作りたいというスタンスを会社がブレさせずに持っていると、若いスタッフもその熱量を受け継いで頼もしく育ってくれるんです。
僕自身、経営の基盤が整った今、もう一度自分の手を動かして、設計に時間を割きたいと考えています。もう一段階、新しい次元の建築を作ろうと思ったら、やはり自分も現場の熱量に触れ続けなければいけないと思っています。

2030年、日本の家づくりはどう変化していくのか
羽最後に、2030年に向けて日本の家づくりはどう変わっていくと思われますか?
髙家を「資産価値」として最大化するという考え方がより一般的になると思います。今までは消費されるものでしたが、これからは「社会資産」というムードが高まっていく。若い世代はNISAや投資などの金融教育を受けているので、バランスシート的な思考で家を捉える人が増えるはずです。
「ローンは減っていくけれど、資産価値は目減りしない」ような家。あるいは、田舎での二拠点居住なども増えるでしょう。管理を個人で所有するのは限界があるので、複数の人が利用して維持管理していくような考え方も必要になってくると思います。
あと、AIの進化。AIが多くのことを代行するようになりますが、最終的に快適さの決め手になるのは人間の「野性的感」や「五感」だと思います。そこを大切にしている人が、これからの家づくりではより重用される世の中になってほしいですね。
羽時代が変わっても、建物は人が建て、人が使うもの。手垢のついた人間味のある価値を大切にしながら、ハードをアップデートし続ける。その先にこそ、本当の意味で「永く」愛される建築がある。今回のホテルプロジェクトも、まさにそんな想いを体現する場所にしていきたいですね。
素晴らしいお話、ありがとうございました。


