家の話をしよう - 専門家との対談 [ロングライフ]
TALK SESSIONS
Long-life
木藤阿由子きとうあゆこ
建築知識ビルダーズ 編集長
1975年静岡県生まれ。大学卒業後、旅行会社に勤務。その後、旅行専門誌の編集を経て、2002年株式会社エクスナレッジに入社。『建築知識』編集部に所属し、主に建材・設備の分野を担当する。2010年、工務店・リフォーム会社のための住宅デザイン誌『建築知識ビルダーズ』を立ち上げる。年間100件以上の住宅を取材するほか、500件以上の住宅プランに目を通し、良質な住宅を探す。雑誌のほか、専門知識を活かした家づくりに関する書籍・ムックの編集も手掛ける。
取材:2019年9月25日
※記載の情報は取材時のものです。
- 聞き手:羽
- タイコー 羽柴仁九郎
- 語り手:木
- 木藤阿由子編集長
合理性を追求しながらも、豊かに暮らすことを諦めない、むしろ新しい住宅のあり方を示す。
羽私も設計スタッフも『建築知識ビルダーズ』を愛読させて頂いております。年間100件以上の住宅を取材されているとの事で、より長く世代を超えて愛され、住まう事のできる「ロングライフ」な住宅について、お伺いできればと思います。早速ではありますが、木藤さんにとっての「ロングライフな家」とは何でしょうか?
木真のロングライフな家とは「誰が住んでも、住みやすい家」だと考えます。それはある特定の人の夢を叶えるためだけに設計されたり、「自分らしさ」を表現した家ではありません。若い夫婦でも、子育て世代でも、高齢夫婦でも住みやすい家って、どんな家でしょう?地震に安心できる、暑さ寒さのストレスがない、使いやすい動線、飽きのこないデザインetc…。
工務店さんには、目の前のお客様の幸せや満足を気にかけながらも、常に「普遍性」を追求してほしいと思っています。なぜなら、家は個人の所有物でありながら、極めて公共性の高いものでもあるからです。
その点で、御社のお客様のご要望よりも、まず敷地と向き合い、太陽エネルギー活用(パッシブデザイン)の観点から、そこに建つべき家の姿を導き出すという設計姿勢は大変素晴らしいと思います。
太陽エネルギーを活用することで、生活空間が快適になるだけでなく、暖房エネルギーを減らし、地球温暖化にも貢献するという公的なメリットにもつながります。これは、普遍性の追求といえるのではないかと思います。
周辺環境や敷地の特性を読み、そこに建つべき家の姿をあぶりだすように設計する。そのようにつくられた家こそ、誰もが住みやすいロングライフな家であると考えます。
羽ありがとうございます。仰るように、インテリアの流行や住み手の要望は年を経るごとに変化しますし、住み手が変われば要望なんて無かったもの同然。そんな中で普遍的に変わらない自然の太陽の動き、風の流れを最大限に利用して心地よい快適な家をつくる。それが私たち作り手の使命だと思います。そこに性能面や施工品質等が組み合わされば言わずもがな「ロングライフな家」ですよね。
環境問題について
羽先程「地球温暖化」というワードが出てまいりましたが、先日米ニューヨークの国連本部で開かれた「気候行動サミット」で、16歳の環境活動家グレタさんが各国の取り組みの遅れを批判する熱い演説をされました。僕たちは大人であり、子供たちに対して責任を負う立場だと思うのですが、木藤さんはこれを受けてどう思われましたか?
木基本的にはグレタさんが訴えている「危機感」は、私も割と昔から持っていて、大人たちは決して無視してはいけない主張だと思います。環境問題にはさまざまな観点があって、北極の白熊が危ないとか、熱帯雨林破壊とか、大気汚染から海洋汚染まで、なんらかの問題意識をもった人は少なくないと思います。
ただ、それが「夢のマイホーム」づくりになったとたんに、その意識がどっかにいってしまう。急にエゴ意識が働いて周りが見えなくなる大人がすごく多いと思います。私はそれが少し寂しいなと思っていて。
例えば、太陽光発電なんかも「自然エネルギーを活用しよう」という意識ではなく、「売電して得したい」という利己の意識で載せる人が多いように思います。そのこと自体は悪い事ではないし、責めるつもりもないのですが、家づくりの場面においては、地球環境によいもの・ことを選ぶという意識が極端に減ってしまう現状が、寂しいなと。
お客様がそうだから、工務店側もほとんど環境問題については触れようとしませんし、高性能住宅やパッシブデザインのメリットは、「光熱費削減」や「ヒートショックを防ぐ」ことを謳っている会社が多いですよね。確かに「CO2排出量の削減が~」などと突然話されても、お客さんは困惑するでしょうけども…(笑)。個人的には工務店さんに環境問題にもっと積極的に取り組んでほしいですし、そういう会社を応援していきたいと思っています。
そんな中で御社は、初めて来店されるお客様にまずは環境問題の話から始めますよね。それには驚きました。これまで全国でたくさんの工務店を取材してきましたが、そんな工務店、ほかにいませんよ。逆にどうして環境問題について、一番に打ち出されているのですか?
羽単純にライフワークだと思っているからです。工務店として個人の家ももちろんきちんと考えて建てていくのですが、その先にあるのは各社それぞれで、100棟建てるのが目標だという会社もあれば、地域密着型でその地域で建てることで地域が活性化するとかいう会社もありますよね。僕は別に棟数をたくさんやりたい訳でもないですし、地域を活性化させようなんてトヨタやYKKのように大それたことも考えている訳じゃなく、年間18棟でもしっかりと建てていけば、ちょっとずつ未来が変わっていくんじゃないかと考えています。いち工務店としての活動は環境問題の中ではとても小さな力にしかならないのですが、これを日本中の工務店が全国でやれば大きな力になって本当に未来を変えていけるんじゃないかと考えています。地球温暖化が叫ばれる中で実際に0.0001℃でも気温が下がったら…という想いのもとで(笑)。
木おっしゃるとおりですね。数多に存在する住宅のなかのたった1棟でも、点が増えれば線となり、線が増えれば面になります。小さな点であっても増やしていくことが大切だと思います。
羽そうですね。僕はこの大阪の地域に育ててもらっているので、少しでもこの地域に合ったロングライフを見据えた住宅という形でどんどん還元していきたいと思っています。大阪は値切る文化があるせいなのか、建築単価が全体的にすごく安いので、このエリアで付加価値を唱え、質の高い住宅を提案する事はすごく大変ではあります。ですが、「いいものは高い」という事は分かっていただきたいですし、でもぼったくりたくはないですし。どこまでであれば、お客様が納得して付加価値の高い住まいづくりを一緒に考えてくれるか?模索しながら家づくりをしています。
木質と価格のバランスは、とても難しいですよね。何をもって「質が良い」とするのかも、人それぞれで感覚が違います。1つ言えるのは、家の質はお客様の夢を叶えたかどうかで決まるものではないということ。そういった視点で、御社の都市型パッシブデザインは住宅のスタートラインを高いレベルで設定し、一時的な想いやトレンドではなく、「家」の未来を見据えた提案をしています。ただ売れればよいという会社もあるなかで、信頼できる工務店だと思います。
羽ありがとうございます。環境問題と住宅の関係についてお話伺ってまいりましたが、木藤さんの考えるエコハウスって何ですか?
木私の中ではやっぱり地球環境やエネルギー問題に配慮した家づくりっていうのが大前提にあります。が、弊社が主催した日本エコハウス大賞では、より細分化して下記の5項目をエコハウスと定義させていただきました。
1:高い水準で躯体性能が確保されている
2:周辺環境を読み込み、家族構成や生活性を考慮してプランされている
3:地域の気候や風土、習慣を尊重した設計がなされている
4:エネルギーに対して経済性や持続可能性を考慮し、工夫・挑戦している
5:住まい手だけでなく、地域・社会・未来に対して思いやりのある設計がされている
こうしてみると、エコハウスというよりは「ロングライフ」といったほうがよいかもしれません。つまりロングライフ住宅こそ、真のエコハウスであり、地球環境にもよい住宅であると考えています。実はこの日本エコハウス大賞は、今回の第5回でいったん終了となります。それは2020年以降は「ロングライフ」に目を向けていきたいと考えたからです。築10年以上経った住宅がどうなっているか。数十年後を見据えた家づくりがなされているか。住まい手とつくり手が10年後もしっかりと繋がっているか。目先の喜びではなく、もっともっと先を見た上で家づくりをするってことが大切で、そこに住宅の「質」すなわち「価値」を見出したい。お客様には、そこに目を向けてほしいと思っています。
羽本当にそう思います。弊社でも「50年先を考えた家づくり」というのは数年前から掲げさせて頂いているのですが、ちょうど未来の話が出てきたところで最後に、木藤さんは2030年の住宅ってどうなっていると思いますか?
木難しい質問ですね。たとえばAI化が進んでいるとか、高性能が当たり前になっているとか家そのもののつくりも変わっていくと思いますが、私が最も注目しているのは購入方法の変化です。これまでのような注文住宅を建てる人は一部の富裕層になって、多くの人はマンションのようにできているものや、分かりやすいものを買うようになっていくと思っています。インターネット上での情報収集やコミュニケーションが当たり前の世代にとって、コストや時間のかけ方は合理的なほうが馴染みやすいでしょう。そういう意味では、家もコンパクトでシンプルなものになっていくと思います。今の注文住宅のように「自分達だけの家」をコストや時間をかけてつくるのではなく、ロングライフという観点で性能を判断し、住みやすい平均的な間取りの家を探して購入するという流れになるのではないかと。バーチャルの世界が居場所になっている世代にとって、家が特別である必要はないでしょう。あまり明るい未来予測ではありませんが、そうした消費者モードのなかで、住宅はどうあるべきか、工務店はどうあるべきかは、よく考えるようになりました。願わくは、普遍的な質の高い住宅が確立されていて、それを提供するのが御社のような工務店であるといいなあと思います。
羽ありがとうございます。確かにロングライフを目指す以上個性的すぎてもいけませんね(笑)。今はまだ家のハード面の質を高め、お施主様に合わせた家づくりをしているのですが、少しづつ「誰でもどの世帯でも」快適に住み継いで行ける住宅のこれからの形についてタイコーとして考えていきたいと思います。
タイコーの手掛ける定期借地権型分譲地ビレッタについて
羽大阪の都市部で家を建てる際、現実的に土地はそれなりに高く、建物にそれほど予算は残せません。敷地の広さは当然限られています。そうすると、どうしても取捨選択をして設計を考えていかないといけません。都市型パッシブという形を僕らなりに模索して考える必要性があり、その中でさらに一歩踏み込んで考えたのが分譲地の「VILETTA」シリーズです。土地が狭く限られており、どこも同じような顔の住宅街。それを僻んでも仕方が無く、新たに街を作り出せば良い!という事で、定期借地権を利用して土地代をタダにした上で、庭を囲むようにゆとりをもって住戸を配置し、全戸南向きで4間間口を実現。コストを抑えて販売ができるような仕組みを作りました。「なぜ土地を所有したいのか?」と伺った時に、ほとんどの方が「資産価値」と言われます。
ですが、将来お子様が必ずしもその地域にいる訳では無いですし、そうなった時に結局空き家になって固定資産税だけがお子様の負担になる。そんなケースも多いので、土地の「所有」と「利用」をセレクトできるのも新しいコンセプトとなっています。
木以前に比べると土地に対する執着心も少しずつ減ってきていますよね。
私たちの親世代は完全に「土地は所有するもの」という考えですが、マンションが出てきて、土地の所有面積よりも立地や利便性に価値を置く人が増えました。VILETTAに住まわれる方はやはり子育て層がメインですか?
羽子育て層がメインではありますが、「今から土地を持ってもしょうがない」という年配の方も一部住まわれています。歳をとって、田舎暮らしがしたいという方も、住宅地の中でもこんなに豊かな庭があるなら…とご購入いただきましたね。
土地は「所有から利用へ」の時代です。そういう考え方の上に、パッシブデザインで暖かく涼しく、SE構法で強く、そしてちょっとかっこいい家が建てられたら、人生的にはすごくマッチするんじゃないかと。
資産価値が変動すると考えたときに、土地を買う人、株を買う人、国債を買う人、現金で持つ人がいるように、未来が分からない以上そこに答えはありません。土地の所有に関しても同じで、土地を持つことが必ずしも正しい選択ではありません。未来に行ったら分かるかもしれないですが、今は何が正しいのか分からないですよね。そんな中でいろんな選択肢を皆様に与えて、それを皆様がどう客観的に判断するのかっていうのが、尊重するという事なのかなと思っています。
木土地を「所有から利用」する時代に納得です。その考え方を反映したビレッタは、単なる建売住宅や分譲住宅とはまた違う、合理性を追求しながらも、豊かに暮らすことを諦めない、むしろ新しい住宅のあり方を示していますね。
(ビレッタ模型を見ながら)みんなで共有する庭と各住戸のプライベートコモンがあるんですね。お庭の管理等も街全体でされていて、それで成り立っているというのがすごいですよね。定期借地権で、隣地との境界も曖昧で、「ここからここが自分の敷地だ!」っていう主張がないからこそ、それが街のおおらかさにもつながっていて、すごくいいですね。
少子高齢化で少人数家族や単身世帯が増えるなか、「集まって住む」ことが見直されています。シェアハウスやシェアオフィスが増えていますし、プライベートとパブリックをうまく行き来する若い人が増えれば、ビレッタのような「ゆるやかに集まって暮らす家」が支持されるように思います。
外構計画について
木余談になりますが…大阪って本当に緑が少ないですよね。先日、伊丹空港に向かう飛行機の中から大阪の町を見たのですが、まったく緑がない景色に正直「この街にもう少し緑を増やさないと息苦しい!」と感じました。おそらく土地が小割になっているので庭をつくるスペースがないのが要因でしょうが、管理が面倒とか庭にお金をかけたくないという理由で「木は一本も植えなくていい!」という人が多いとも聞きました。御社のHPで施工事例を見ても、いい家だと思うのですがやはり全体的に緑が少ないという印象を受けました。
羽そうですよね。どうしても土地が狭かったり駐車スペースの事を考えるとなかなか緑を入れることが出来ないのですが、僕たちもそれは痛感していて。だからRoomでは外構に力を入れました。せめてモデルハウスでやっていないと誰もやってくれないし、興味がある人も来てくれないなあと思って。
木そういう心がけが大事だと思います。たとえ狭い土地だとしても、設計と工夫次第で緑は取り込めると思いますし、そうやって大阪にも緑の点をどんどん増やしていって欲しいです!よろしくお願いします(笑)。
羽そうですよね。資産価値、ロングライフを考えたときは、単体の家だけでなく良好な緑のある街並みやはり重要ですので、1邸1本づつでも植林して(笑)大阪の未来を少しでもエコな街に変えていきたいと思います。