家の話をしよう - 専門家との対談 [ロングライフ]
TALK SESSIONS
Long-life
田鎖郁男たくさりいくお
株式会社エヌ・シー・エヌ 代表取締役社長
株式会社エヌ・シー・エヌ(NCN)代表取締役社長、株式会社MUJI HOUSE専務取締役。1965年埼玉県生まれ。千葉大学工学部卒業後、日商岩井(現・双日)入社。木材本部に在籍し主にアメリカ、カナダからの木材輸入を担当する。96年に株式会社エヌ・シー・エヌを設立し、2006年6月より代表取締役社長を務める。またアメリカのフランク・ロイド・ライト財団から正式に認可を受け、日本でライトの建築物を復活させる事業にも携わる。著書「そうか、こうやって木の家を建てるのか」「家、三匹の子ぶたが間違っていたこと」「三匹の子ぶたも目からウロコの二〇〇年住宅」ほか
取材:2019年10月4日
※記載の情報は取材時のものです。
- 聞き手:羽
- タイコー 羽柴仁九郎
- 語り手:田
- 田鎖郁男社長
30年後にも通用する性能の家づくりをしていく事がロングライフに繋がる
羽今回田鎖社長には、タイコーの家づくりの3つのこだわりのうち「ロングライフ」というテーマの中で対談をさせていただきます。「ロングライフ」は、まずは地震に強い家をつくりましょうという事、そして施工品質・メンテナンスの質を高く保ち、資産価値を高め、ずっと住み継げるにしましょうという内容になっています。
ではまず初めに、耐震構法SE構法とタイコーとのお付き合いの始まりについて、お伺いしたいと思います。
田懐かしいですね(笑)私たちがSE構法を世に出すか出さないかという頃に、タイコーハウジングコアの羽柴準司社長が僕らのところに視察に来られました。その頃、準司社長はお客様にご提案できる新しい武器を探しておられて、そして私も一緒に家をつくっていただける業者様を募集していました。有難いことに今はSE構法の登録店は全国に約500社ありますが、その頃はまだ一桁台だったと記憶しています。
普通、分譲住宅屋さんだと構造の事には興味が無い方が多いのですが、準司社長は違いました。当時は集成材というと、身体に悪いというイメージを持たれたり、建築家の中でも無垢材派が多く、集成材なんて材木じゃないという方もたくさんいたのですが、準司社長は私たちの話を聞いて「ええやないか」という風に仰っていただいたのが印象に残っています。
当時はまだ単価も今の2倍くらいでかなりの高価格でしたが、それでも準司社長は「チャンスをやるからやってみろ」と。
羽もう随分も前の話ですからね(笑)そこからずっとお付き合いがある訳ですね。では、今SE構法を扱っている約500社の中で、特に実績の豊富な工務店、約65社が重量木骨の家プレミアムパートナーという風な肩書を持っており、タイコーもその一員として活動させていただいていますが、「重量木骨の家」というのはSE構法が始まってから何年くらいで誕生したのですか?
田2004年ぐらいからですね。実は「重量木骨の家」っていうのは、建物の間取りをグリット化・単純化してライフスタイルの変化に応じ、可変性が取れるような基本プランを皆で作って考えていこうという取り組みからスタートしたんです。
羽この頃はかなりスケルトン&インフィルの考え方が主軸になってますよね。
田そうなんです。シンプルな形だけど丈夫で、そして階高も取れる。当時はまだ棟数を追いかけるというよりも、木造住宅の可能性をどうやって広げていくかということを考えていました。
羽最初のころから「耐震」と「ロングライフ」がテーマだったんですね。
田その通りです。阪神淡路大震災でたくさんの家が倒壊しましたが、地震で倒壊するような家は作ってはいけない。丈夫にしなきゃいけない。というのが、使命感としてありました。
ところが、日本の住宅の寿命は30年という風に言われていますよね。地震に強くても結局30年経ったら壊されるか、誰も住まなくなってしまう。だから丈夫に作っても意味が無いんじゃないの?というような不安もありました。
羽強さだけではなく、ずっと住み継がれ、愛される何かが必要だということですよね。
田そうですね。強いというのは最低限の条件なのですが、強く作るとコストが高くなりますよね。高いお金をかけて建てた家なんだから強いだけじゃなくて残さないともったいないという風に考えたときに、「じゃあどうやって住み継いでいくのか?」と。家を住み継いでいこうとする時、家族構成によって住まう人数は変わってきますよね。将来二世帯住宅になる事も考えて、どこまで壁を減らせるか?どこまで可変性を持たせることができるか?の限界に挑戦すると、やっぱり自然と住宅の形はシンプルになっていくんです。
羽改めてSE構法の歴史を紐解いていくと非常におもしろいですね。ここに長期優良住宅や完成保証、パッシブデザイン、第三者検査、さらにいろんな事が肉付けされて資産価値が高まっていって「ロングライフ」な住宅が生まれるわけですね。
田僕の中で「ロングライフ」をテーマと考えたときに3つに分かれます。一つ目が「性能」、二つ目が「使い勝手」、そして最後に「大切に愛されること」。
「性能」というと構造の強さはもちろんですが、温熱環境も当てはまります。
私の中では、30年前と今の住宅での一番の変化は温熱環境なんです。30年前って無断熱住宅が普通でしたよね。窓はもちろん単層ガラスのアルミサッシ。
それが今は全国の工務店が高断熱高気密に着目していて複層ガラスの樹脂サッシが主流になりつつある。すごく進歩していますよね。
羽そうですね。たった10年で断熱気密はすごく普及しましたよね。
田断熱気密は住んでいても目に見えない部分なので、お客様はなんとなく「壁の中に断熱材入ってるわね。」というくらいで、まだ冬の日射取得量を表す数値なんかについては知らないし、窓サッシもトリプルなのかペアなのか、目で分かるものについては反応できますが、そうでないものは正しく理解できていない。でも30年後には、どの会社も最低限の性能は持っているでしょう。僕が考えるロングライフはこの概念です。30年前の性能と今の性能の差があるのであれば、30年後の性能も同じくらいの差があるという風に考えていかないと、その時に通用しないですよね。
羽そうですね。先を見据えていかないと永く住み継がれる家にはならないですよね。温熱環境についてお話いただきましたが、「構造」については30年前と比べてどのような変化を感じておられますか?
田構造はそこまで進歩していないんです。阪神淡路大震災や東日本大震災など、様々な巨大地震を受けてどんどん改良はされていますが、それでもまだ震度6以上の大地震が繰り返し起きた場合に耐えられるかどうか?まで検討しているのはほんの一握り。阪神淡路大震災のような地震が起こった時に家族を守れるような家はまだまだ少ないんです。
羽それに対してSE構法は今ではなく、30年先の未来をしっかり見据えた性能を提供しておられる。必ず資産価値に繋がるし、本来あるべき姿だと思います。
では、先ほど挙げられたロングライフの3つのテーマ「性能」「使い勝手」「大切に愛されること」のうち、3つ目の「大切に愛されること」についてお聞かせください。
田「大切に愛されるもの」って何だろう?と考えた時に、やっぱり美しくて綺麗なものは永く愛され続けますよね。性能ももちろん大切ですが、この先もずっと残したい!という人間のモチベーションを湧かせるような建物でないと実は建物の命は勝手に殺されてしまう。
重量木骨の家でもお施主さんに愛され、残したいと思われる建物を作っておられる会社さんを表彰したいですし、残したいからメンテナンスして…っていう事も「ロングライフ」に繋がるのではないか、という事で「大切に愛されること」を挙げさせていただきました。
羽これはプロの中でも人によって考え方がすごく変わる部分だと思うのですが、私は家のフルリフォームやリノベーションについて基本的には必要ないと考えています。最初に50年先を見据えたぐらいのスペックで投資をして高付加価値なものを手に入れていただき、あとはそれを単純にメンテナンスだけするという考え方がそもそもロングライフには必要だと考えているからです。
田仰るように、フルリノベーションという概念は僕もいらないと思います。建物の目的としてはコミュニティ(家族もコミュニティのひとつ)であって、いろんな人との接点を持つ場所であるから、それをどう維持してあげるかが大事。もともと性能が悪いものを無理やり生き長らえさせるのは可哀そうですよね。
今木造の戸建て住宅でリノベーションをしようと思うとだいたい2000万円ぐらいかかってしまうのですが、SE構法の家だと、スケルトン・インフィルの考え方があるので、300万円ほどで済む事例もあります。耐震性はもちろん担保出来ています。そろそろSE構法も20年経ったので、リフォームでそれを証明できる時期が来たかなあとは考えています。
羽たしかにSE構法はスケルトン・インフィルの考え方で・・・とお客様に説明しつつもまだ事例が少ないので今後の展開が楽しみです。
では最後に、田鎖社長の考える2030年の工務店がすべきことはなんですか?
田2030年は、工務店さんが売ったものに対して「その責任を持つ」。メンテナンスや中古の売買など、自分のつくったものに対してしっかりと責任を持てるシステムを持っている必要があると思います。会社を永続させていくには、少なくとも売ったものを永く住み継がれるようにアシストする「ロングライフ」の考え方を持っていないといけないのではないかなと思います。
インターネットが発達している今の世の中は、良い情報も悪い情報も皆さん同じように受け取りやすくなっていて、いいものをつくればみなさんインスタグラムで上げてくれたり、情報のスピードがとても速いですよね。そうすると、より正しい歴史を持っている人が、評価される時代が来るようになるのではないかと思います。
羽この10年のあり方ですね。それはまあ評価されるだろうな~と思います。
田世間ではIT化が叫ばれていますが、それこそ家の見積もりなんかも図面を写真で撮ればいくらっていうのが出てくるようになる時代が来ると思いますし、NCNでも今AIを導入し始めていて、皆さんからもらった間取り図を撮ったら構造の概算見積がすぐ出システムを今一生懸命作ってます。そうやってどんどん機械化されていくと、手仕事の価値がどんどん上がってきますよね。どこの時代でもレンガを綺麗に積み上げるのはレンガ職人がいるし、クロス綺麗に貼るのは熟練の腕がいるし…
羽改めて最後は人の手と感性のありがたみが偉大だという事ですね。家づくりには本当にたくさんの人が関わります。その一人一人を大切にできる仕事や社会をつくって行きたいですね。ありがとうございました。