Passive Design

野池政宏のいけまさひろ

一般社団法人パッシブデザイン協議会 代表理事

1960年生まれ。住まいと環境社代表。岡山大学理学部物理学科卒。(一社)Forward to 1985 enegy life 代表理事、NPO法人WOOD AC理事、自立循環型住宅研究会主宰。主な著書:『パッシブデザイン講義』Passive-Design Technical Forum、『パッシブデザインの住まいと暮らし』(共著)農文協、『省エネ・エコ住宅設計究極マニュアル』エクスナレッジ、『本当にすごいエコ住宅をつくる方法』エクスナレッジほか。

※記載の情報は取材時のものです。

聞き手:
タイコー 羽柴仁九郎
語り手:
野池政宏先生

パッシブデザインというのは理想的な建物の設えの基本なんだ。

まず初めに、野池先生の提唱されている「小さなエネルギーで豊かに暮らす」という事について、その概要をお聞かせください。

皆様ご存知かと思いますが、近年は異常気象で世界中で温暖化が強く示唆されるような状況です。そんな状況を考えると、仕事人として、そして一人の大人として、“生き方自体を考えていく”という事が強く求められている時代ではないかと。

家一軒一軒の消費エネルギー量で考えるとそんなに大きなものではありませんが、日本全体では4000万戸以上の家があります。それを考えると家庭部門では非常に大きなエネルギーを消費していることになります。地球規模で考えるとさらに大きな話になりますよね。
そういった住宅建築における社会的影響を考えた上で家づくりをする事が強く求められていくだろうと考えています。

その一方で、もちろんですが、人間ひとりひとりにはそれぞれ充実した幸せな生活を送る権利があります。そしてその中で住宅はとても大きな影響を与えるもののひとつです。「やすらぐ場」であり「活力を生み出す場」でもある家を、いかに幸せに暮らすための基盤として作っていくかという事も求められます。

社会的影響を考えた上で、それぞれの家庭の幸せな生活を実現できるような住まいを実現するという事が非常に重要という事です。

特に最近では、家の中の温度が健康に対して大きな影響を与えるということも、ここ数年の様々な研究結果で明らかになってきています。単に「過ごしやすい」という事だけでなく、住宅は身体的な影響も与えるという視点を持ったうえで、幸せに過ごせるような家を考えていかなければならないという事です。

“社会にどう関わるか”と“家に住まう人をどう幸せにするか”という事はずっと昔から僕のテーマで、これまでいろいろな表現の仕方をしてきましたが、5年ほど前から「小さなエネルギーで豊かに暮らせる”住まい”そして”社会”をつくろう」といった言葉を使い始めました。去年はこのフレーズで本も書かせて頂きました。

ありがとうございます。僕が最近痛感しているのが、実際にパッシブデザイン設計をして、お引渡しをさせて頂いても実際の暮らし方は人それぞれで、私たちがご提案させて頂いた設計手法をうまく利用して小さなエネルギーで「冬暖かく、夏涼しい」家で暮らしている方もいれば、そうでない方もおられて、実際の快適性・省エネ性にも差が出てきてしまっています。それを踏まえた上で、野池先生の思う「かしこい暮らし方」をお聞かせください。

「家をパッシブデザインの設計手法でうまくまとめること」と「適切な設備を取り込むこと」の両方が大事です。しかし、仰るように、設備の使い方も含めてその建物をいかにうまく住みこなすかによって住まいの快適性は変わってきます。当然エネルギー消費量も変わってきますよね。それをいかにうまく”コンサルタント”するかがとても重要です。

先程もお伝えしたように、特に健康に関して言うと、住まいの温度環境と健康はとても密接な関係があります。それを考えたときに、「かしこく暮らす」ということがどういうことなのか を社会の中の誰かが生活者に伝えていかなければならないと思います。

その役割を誰が果たすのかという事を考えたときに、それは医者でもなく保健所でもありません。一番その家の特性が分かっていて、その家にどのような設備を入れたのか、どのような性能なのかを熟知している住宅の作り手が「暮らしのコンサルタント」を担うという事が一番適切だと思いますし、これからそういった住宅の作り手がどんどん増えていったらいいなあと思いますね。

弊社でも最近やっと全棟温湿度と消費エネルギー量を実測しようという事でHEMSと温湿度センサーを標準化しました。そのデータがどんどんと集まってきたときに、実測値でどのくらいの室温になるのか。設計時は無暖冷房状態での室温シミュレーションを行うが、実際どのくらいの容量のエアコンでどのくらいの稼働時間が必要なのかなど、統計をとってご提案の段階でお伝えできるようにしていきたいと考えています。実際室温の感じ方も人それぞれなので一概には言えないのかもしれませんが…。

もちろん体感温度には個人差がありますよね。ですので、実際の具体的な温度変化や光熱費を見つつも、そのお客様の声を聞いて、それを半年に一度でも一緒に振り返り、「もっとこういう暮らし方をした方が…」なんていうアドバイスを与えられる機会を持てると尚良いと思います。そういう風にそれぞれのお客様の課題に合わせて暮らしをチューニングいていくという事も大事だと思います。

ありがとうございます。「暮らしのチューニング」いい言葉ですね。また定期点検のタイミングでそういった事が出来ないか考えていきたいと思います。
では、実際の設計についてなのですが、冬の日射熱利用暖房を考えたときに、いったいどういった設計を考えていけば室温を満たせるのか、その考え方があれば教えて頂きたいです。

データ上、南面に当たる太陽の熱量はものすごいエネルギーだという事が分かっています。その上で「南面のこのくらいの大きさの窓であれば、このくらいの熱量を得ることが出来る」というのは把握できるので、それに基づいて計算をすると、例えば12℃の部屋を20℃にしたいと思ったら、「このくらいの窓を南に設けておけば温度が8℃上がるんだ」という事はかなり簡単に出すことが出来ます。要は部屋の大きさに応じて窓の大きさや量を増減させていく必要があるのです。

例えば、朝に2時間ほど暖房をつけて20℃ぐらいになった部屋が、無暖房で15時ごろに23℃くらいまで上がる時のその部屋の窓の面積は、その部屋の床面積の約20%という事が計算上分かっています。なぜ室温の上がった先を23℃に設定したかというと、ある一定の断熱性能があれば、15時の段階で23℃だと、無暖房で室温が下がっていっても23時の段階でだいたい18℃くらいになります。18℃だと寒いと感じる人もいるかもしれませんが、実際の家庭では、家族はほとんど夕方から夕食等の活動を始めるので、その生活熱で室温はある程度上昇し、安定します。ですので、実際にこの「床面積に対して20%以上の窓を取る」という事が実現できると、晴れた日にはほとんど暖房要らずの生活が出来ます。実際のご家庭で実測をしてみてもほぼほぼその想定通りになったので、自信を持って提唱させて頂いてます。

そうですね。私たちの室温シミュレーションや実際の家の温度グラフを見てもほぼ同じ結論になっています。太陽の光と熱をとり入れることで、とても快適な家が実現できますね。その流れの中で、断熱基準についてお聞きしたいのですが、北海道から沖縄までの各地域では地域区分というものがあり、その地域区分ごとに性能基準が定められていますよね。その中で5地域もしくは6地域に区分されるここ大阪では、どのくらいの断熱性能を目指せばよいのか?野池先生の考えられるその指標をお聞かせください。

※令和元年9月13日時点では大阪は5地域・6地域の2つのエリアが混在しています。

最低でも必要なのがHEAT20という団体が推奨しているG1レベル。ですので、6地域だとUA値0.48W/㎡・K以下、5地域だとUA値0.56W/㎡・K以下は最低でも必要です。あとは、コストパフォーマンスやお客様のご要望等によって断熱性能はどんどん上げていったらいいのではと思います。

とは言え、僕はUA値よりもQ値の方が適切な指標だと思っています。5地域だと1.6 W/㎡・K以下、6地域だと1.9 W/㎡・K以下は最低でも守って頂きたいです。この性能を守ると、夜中0時の段階で室温が20℃だと仮定した際に、無暖房で朝6時に15℃をきらない室内環境が実現できます。夜中は基本的に誰も活動せず、日射熱も得られないので、室内の熱はどんどん出て行き、それに伴って室温は下がっていってしまいます。その下がり幅を小さく抑えるのが断熱性能の力です。

冬場家にいて一番寒くなるのは朝方なので、その一番寒い時でも最低15℃をきらないような住まいづくりを日本中でしていく。その中でもっと暖かい家がいいというお客様の場合は、しっかりとコミュニケーションをとって断熱性能を上げていく。これが一番適切じゃないかなと思います。

そうですね。どれだけお客様とコミュニケーションをとるか。生活時間帯も含めてきちんとそれおれのご家庭に合った提案が大切ですね。どれだけ断熱性能を上げるかについては令和元年の地域区分の見直し後については、タイコーが大阪で建てるすべての家について標準でG2グレード仕様(6地域はUA値0.46W/㎡・K以下)を満たすことになります。オプションの付加断熱を行う事でG3グレード仕様(UA値0.26W/㎡・K以下)近くまで引き下げる商品ラインナップを考えておりますが、平均的な30坪くらいの家ではだいたい140万円程度コストが上がってしまいます。多少なりとも快適性は向上するとは思いますが、経済的な面で考えるとどうなのか…というのが一つ疑問です。

まあそれはそうですね(笑)。ですので、あくまでも5地域でQ値1.6 W/㎡・K以下、6地域で1.9 W/㎡・K以下という基準を持ちつつ、性能値にこだわられるお客様やダブル断熱がどうしてもしたいというお客様にはコスト面をしっかりと説明した上でご提案するという形でいいんじゃないかと思います。

その通りですね(笑)。もちろん大阪も寒くて暑い地域なのですが、やはりもっと寒い寒冷地に行けば行くほど、断熱性能に投資する経済的メリットは大きくなるのかなと。そんなことを踏まえたうえで大阪での断熱性能はどれくらいが適切なのか、UA値やQ値といった数値だけをお客様に伝えるというのはなかなか難しいなあ…と思います。

これまで、マニアックな工務店やメーカーが「うちはUA値が〇〇でC値が〇〇で…」というアピールをして、それに対してまたマニアックなお客様が色々と勉強されて、「このくらいの性能にしたい」といったような流れが一部あって、僕はそれにすごく違和感を感じていました。「え?何のために?理由は?」と。

やっと最近、そういった建物の性能値ではなく、「室温をどうしよう」「光熱費はどうしよう」といった指標を持って家づくりをするような住まいの作り手が出てきたことは大変喜ばしいことです。それが本来の姿であって、目標室温を前提に「UA値はどうしよう」「C値はどうしよう」といった性能値の話をすべきです。まだまだそういった会社さんは少ないですけどね(笑)。

そうですよね。性能値に比べて、室温や光熱費は消費者にとっても身近で分かりやすいですし、もう少し広くいろいろな人に広まっていく流れが必要だなと感じます。

今までは何にしても基準が曖昧で、最低ラインも曖昧で、そんな中で何が良い何が悪いなんてことを話していてもよく分からないですよね。だからこそ、僕は日本中で「冬場最低室温15℃をきらないこと」を最低ラインとして、家づくりを進めていく。お客様とのコミュニケーションを進めていく。という風になると、すごく理想的だなと思います。
もっと言うと、それぞれの会社の最低の一次エネルギー消費量の基準も定めるべきです。室温と一次エネルギー消費量の基準を定めた上で、それをお客様に提示して、コミュニケーションを進めていってほしいなあと思います。

なるほど。ありがとうございます。最低ラインの15℃をギリギリ守れたとしても、無暖房無冷房で過ごすのは難しいですよね。どちらにせよエアコンが必要になってくると思うのですが、エアコンを夏も冬も使用する前提で、何時の時点で何℃はキープしましょうという目標・基準があれば教えていただきたいです。

まず、先ほどからお伝えしているように、最低室温は15℃を下回らない性能値にすること。その上で晴れた日にうまく日射取得が出来れば、必然的に室温はキープできます。ただ、晴れの日ばかりではなく、雨も降れば雪も降ります。そういう日にはもちろん冬は日中でも暖房が必要ですし夏は当然冷房が必要です。それを踏まえた上で、少なくとも普段主に生活をする部屋は冬であれば20℃以上は必要です。

暖冷房のスケジュールによってかなり年間のエネルギー消費量は変わってきます。そのスケジュールの設定を平均的なこの辺りの地域の家庭で行っていると予想されるスケジュールを前提とするという事がまず必要。

最近お客様にご提案させて頂いている室温シミュレーションでは、冬は起きた時に15℃なので、理想室温である20℃からいきなり5℃低い。なので、まず6時~8時まで28℃設定ぐらいで暖房をかけてグッと室温を上げる。そこから日中は何もせず、日射熱に任せて、夕方少し寒かったら暖房を弱設定で3時間ほどかける。夏はだいたい朝7時~19時ごろまで冷房をかける。という感じで設定しています。

それがだいたい一般的なスケジュールだと思います。5地域6地域であれば、その一般的なスケジュールで運転した冷暖房のエネルギー消費量に、給湯や照明などのエネルギー消費量も含めた全体の一次エネルギー消費量が、だいたい600MJ/ (m2・年)以下を目標にしてほしいです。

600MJ/ (m2・年)まで行くと、暮らし方次第ではもう少しエネルギー消費量を削減することが可能です。さらに、600 MJ/ (m2・年)が実現できたうえで、もし太陽光を6kW載せると、ゼロエネにもなりますね。

まさにタイコーが目標としている一次エネルギー消費量600MJと同じですね!断熱性能、室温、一次エネルギー消費量と適切な大阪のパッシブデザインの基準を聞かせて頂きました。いろいろとお話お伺いしてまいりましたが、これから先設備が変わったり、断熱が進化して行ったりする可能性も含めて、2030年「未来のパッシブデザイン」ってどうなってると思いますか?

まず、パッシブデザインの中で一番難しいのは日射熱利用暖房です。その反面、その効果は非常に大きく、お客様満足も大きいです。なので2030年ごろには日射熱利用暖房という考え方が今よりもますます注目され、当たり前になってくるのではないかと。期待も込めて。お客様が家づくりを考えるときに、「日射熱をうまく利用して住める家を建ててくれるところがいいなあ」というのが一つの会社選びの要素になっているのではないかと思います。

パッシブデザインの5つの要素の中で日射熱利用暖房以外の残りの4つの項目(高断熱高気密・日射遮蔽・通風・昼光利用)はそこまで難しいものではありません。なので将来、日射熱利用暖房よりもさらに当たり前の設計スキルになっている。その中で、各社の日射熱利用暖房のスキルの違いがかなり明確になっていくのではないか、というイメージです。

また、近年非常にプランが開放的になって、LDKは全て繋がっており、二階にも吹き抜けを通じて繋がっていて…といプランが非常に多くなってきていますよね。主寝室や子供部屋は当然個室ですが、個室も含めて全館空調が当たり前になっていくのではとも思っています。全館空調というのを簡単に言うと、冬中暖房、夏中冷房をかけ続けて快適な室温を維持することです。先ほど言った「温度をもっと上げましょう」「家の中での熱中症のリスクを下げましょう」といった社会的モチベーションが追い風になって、そういうプランと暖冷房の考え方・システムがそういう方向に向かっていく可能性がかなりあるなあと。

何を危惧しているかというと、当然全館空調となると一次エネルギー消費量が増えますよね。「エアコンをずっとかけ続けた方が光熱費が安くなる」なんて迷信もありますが(笑)、かなり特殊な例外を除いてそんなことはあり得ません。必ず増えます。
そこが、この先10年ぐらいの住宅業界の大きな課題。全館空調というのはエネルギー消費量がかなり大きくはなるが、快適に過ごせるもの。それをいかに快適かつ省エネに過ごせるようにするか。その辺が2030年に住宅業界としてどうなっているのか?いい答えが出ていれば嬉しいなあと。

それも作り手の責任ですし、これから考えていかなければいけないことですね。例えばお施主様が「全館空調をやりたい」だけどタイコーさんは「一次エネルギー消費量600 MJ/ (m2・年)に収めたい」。そういった時には、それこそ断熱性能をあげないといけない。でないとエネルギー消費量は増えてしまう。G1レベルでは足りないからG2にしようとうか、自社の基準とお客様の要望をしっかりとすり合わせて調整していく必要がありますよね。

僕は今後、“全館間欠暖冷房”が一番メジャーになっていくのではないかとも考えています。かなり全館に近い形で暖房冷房をするが、止めれるときには止めよう、という考え方。例えば、寝ている間はずっと20℃である必要は無いですし、起きた時も16℃ぐらいでいい。ということであれば、エアコンは切っておけばいい。それこそ晴れている日であれば、暖房は切っておけばいい。必要に応じて適切にエアコンのON・OFFを切り替える。今までの居室間欠暖冷房と最近注目されてきた全館連続暖冷房の間にある「全館間欠暖冷房」というのがこれからのメジャーになるべき。それ広まっていけば「断熱性能を上げないと省エネにならない」なんてことにもならないですし、イニシャルもランニングもコスパが良くなってお客様からしても家づくりがしやすいんじゃないかなと思います。

実際、G2グレードのパッシブデザインのモデルハウスを何棟か建てさせてもらっているのですが、吹き抜けが大きい家で、夏は2階のエアコン1台、冬は2階のエアコン1台で全館空調をしていました。そこで、基本的に30坪くらいの家だとエアコン1台で賄う事が出来るということが分かりました。

ただ、そのグラフを見ていても全然面白くなく、20℃をキープしようと思ったらオート設定で21~22℃にしておけば室温は20℃でほぼ一直線になります。さらにそこにタイマー設定でON・OFFを行うのが野池先生の言う「全館間欠暖冷房」なんでしょうね。

当時、人の住んでいないモデルハウスで冬に全館空調で計測していた時で電気代が月8000円ぐらいだったので、ここに実際に住んで生活熱が加わって、エアコンのON・OFFをして行くとだいたい冬でも5000~6000円くらいに収まるなあというのは感覚的にありました。

ビレッタ鴻池Ⅱモデルハウス

十分現実的な数字だと思いますよ。それに合わせて2030年の住宅についてさっきの話の続きですが、これからのパッシブデザインの大きな一つの要素に「中をどう開閉するか」という事があります。広げて暮らしたいときには広げて暮らせるし、「この部屋は別に暖めないくてもいい」という時には扉を閉めてより効率的に暖冷房をかける。それが省エネにもつながる。

僕も含めてですが、今までは冬は日射熱の入る位置に窓をとって夏は日射遮蔽装置でしっかりと遮蔽しましょうという窓周りの調整を強調してきましたが、これからは中の調節機能もパッシブデザインの大きな機能のひとつになってくると思います。

SE構法でスケルトン&インフィルで建ててるので間仕切りはほとんど要らない。あとはどう建具なのかカーテン、障子等を配置するのかという事ですね。ライフスタイルの変化にも対応できる温度の減築。興味深いですね。

話は変わりますが、一般の方がパッシブデザインや健康と温度について、体験しやすい施設をYKK-APさんやLIXILさんがつくられているのですが、この動きについてどう思われますか?

素晴らしい事ですよね。僕も東京のLIXILのショールームへはもう2、3回行きました。その内容は巨大冷蔵庫で冬の外気温を実現し、その中で性能の違う二つの家に入れて、実際の室温を体感できるというもの。一つの部屋にいる時間はたった5~6分だと思いますが、その短時間でも「こんなに違うんだ!」という事は、おそらく一回体感したら相当記憶に残ると思います。一般の方も「新築なのにこんな家にずっと居続けるのは嫌だな…やっぱり性能は大事だな」と絶対に思うはず。これから家を建てようという方には是非一回は行ってもらいたい施設ですね。ついでに言うと、日射熱の体感はまだ不十分なので、「断熱」と「日射」の関係を体感出来たり、ビジュアルでもいいから分かるような施設になったらより良いと思う。大阪にもできるのでぜひ実現してほしい!という話をLIXILのスタッフに2時間ぐらい話しておきましたので乞うご期待です(笑)。

※2020年3月オープン予定

僕も行きましたが、あれでは夏の日射遮蔽の重要性も冬の日射熱のありがたみもわかりにくいですからね。大阪ショールーム完成が楽しみですね!(笑)。タイコーではショールームを利用して断熱体感セミナーを毎月企画していこうと思います。

最後にはなりますが、これからパッシブデザインを考えられる一般のお客様に向けて、先生からのアドバイスをお願いします。

まず、最近はパッシブデザインに興味をもたれるお客様が増えてきたと感じています。パッシブデザインで検索して来てもらったとか、パッシブデザインが差別化になってお客様に選ばれたとか、そういう会社が本当に増えてきているなと実感しています。

まず、ここ5.6年で日本の新築の断熱性能が相当上がってきました。それは大変喜ばしい事です。しかし、その一方で、「断熱性能を高めるだけでいい家になる」という風潮が蔓延していることが気になります。断熱性能を上げると、実際には夏の副作用で熱籠りが生じるとか、冷房費が上がってしまうという事が起こります。そういう点をプロも一般の方も少し思い違いをしているのではないでしょうか。
断熱性能さえよければ暖かくて涼しい家が出来るというのは間違いで、断熱性能だけでは快適な生活は担保されないのです。
ではどうずべきか。断熱気密だけでなく、冬は日射熱利用暖房、夏は日射遮蔽をしっかりとした上で、風通しの良い明るい家にしようというのがパッシブデザインであり、一年を通して満足度の高い家になる最良の方法です。そういう意味で、パッシブデザインというのは理想的な建物の設えの基本なんだという事をぜひ分かって頂きたいです。

超高断熱では、室温や省エネ性の実現は可能だと思います。しかし、やはり日本の富である「冬の日射量が多い」という事を踏まえると、そこそこの断熱性能(G1以上)を目指し、日射熱利用暖房も含めたパッシブデザインの家を建てていく。というのがコストパフォーマンス的にもいいですし、それを作り手も含めて一般の方々がしっかり理解してくれると、パッシブデザインがもっとメジャーになってくると思います。

パッシブデザインについて、まだまだ情報がしっかりと行き届いていないので、「パッシブデザインの家が一番賢いんだ!」という風になかなか思いづらいのですが、作り手側がより丁寧に説明をしたり、お客様側が僕の本を手に取ってくださったりして知識をつけていく事で、きっと納得していただけると思います。快適なパッシブデザインの家をしっかりと建ててくれる会社を見極めて選び、そういう会社で家を建てて「パッシブデザインで建ててよかったなあ」と思っていただきたいと強く願っています。

そうですね!少しでも多くの方に家を建てる事を考えていない方にもパッシブデザインをもっと知ってもらいたいですね。たとえ1戸づつでも快適に省エネになっていく事で、地球の温暖化STOPに寄与できるなら僕はそんな未来をつくっていきたいと思います。

一般の方々にもおすすめの著書「小さなエネルギーで豊かに暮らせる住まいをつくる」