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花井架津彦はないかづひこ

大光電機株式会社 住宅デザイン部

1981年生まれ。2003年大光電機入社、照明設計集団TACT(タクト)に配属。現在は住宅デザイン部にて活動。住宅照明を専門として、ハウスメーカー・建築家向けを中心に数々の照明計画を手がける。『荻野寿也の「美しい住まいの緑」85のレシピ』(エクスナレッジ)を執筆した荻野寿也氏の造園演出にも数多く携わる。2018年、“庭の樹太郎" を襲名。全国各地で講演活動を行っている。著書『庭と住まいの照明手帖』

取材:2019年11月5日

※記載の情報は取材時のものです。

聞き手:
タイコー 羽柴仁九郎
語り手:
花井架津彦氏

体内時計に合わせて夜の光も調整してあげるのがベストな住環境だと思います。

私は照明は建築の中で単なる住宅設備ではなくとても奥深いものと感じるのですが、照明のプロとして、建築と照明の関係性はどのようなものと考えられますか?

住宅業界の中で「照明は大切だ」ということをコンテンツとして取り上げていただく事はとてもありがたい話なのですが、住宅の中での照明の立ち位置は、まだ単なる設備に過ぎないのかなと感じています。
皆さん「照明つけて」じゃなくて「電気つけて」って言いますよね。その言葉がすべてで、やはり「電気」であり、設備なんだなぁと…。やはりそれが一般の方々に根付いている意識であって、まだまだ住宅や建築の中での照明の優先順位は低く、「照明をこだわりたい」という方々もまだまだ少数派になります。

では本日は消費者の方々に想いをおおいに発信してください!(笑)

ありがとうございます(笑)私も住宅建築に携わって10年ほどになりますが、やはり一般の方々が照明の重要性について認識していただかないと、住宅業界全体としても変わっていかないんじゃないかというのは最初からずっと感じている事です。

なるほど。当社では設計時に太陽の光もとても大切にしています。パッシブデザインという設計手法の中で、太陽は光と熱を享受してくれます。「熱」は暖房としての役割で、「光」は適切な位置に窓を設けることで照明いらずの明るい空間をつくることができます。しかしながら「太陽」からの光なので夜は恩恵を受けることはありません。
「昼の光」と「夜の光」では役割は同じでも感じ方や心地よさなどの部分で違いがあると思っているのですが、照明屋さんとしてはどのように考えられていますか?

昼間に照明が必要な住宅は採光面で失敗した住宅だという事を聞いたことがあります。これについては私もすごく同意する部分がありまして、昼間の照明は無くてもいいんじゃないかなと思っています。消灯している照明に意味は無いので、昼間は存在感が無い方がいいということも考えつつ照明計画をしています。
あとは、昼と夜で考えたときに、“明るさの軸”をちゃんと持っておきたいと思っています。単純に昼間は明るく、夜は暗くという考え方なのですが、それがやはり自然の摂理ですよね。
昼間から夜へと変わる光のサイクルがあるように、人にも体内時計というものが有るので、体内時計に合わせて夜の光も調整してあげるのが一番ベストな住環境じゃないかなと思っていますし、一般の方々にも伝えていきたいことのひとつです。

なるほど。昼と夜だけでなく、「夕食時」「映画鑑賞時」「調理時」などシーンに合わせての光の調整も重要ですよね。

そうですね。お客様は予算の関係もあって調光器を付ける事を諦められる方が多いのですが、やはり私はシーンに合わせた照明というのが大切だと思います。私の家では夜21時ぐらいになったらわざと照明を暗くしていって子供をだんだんと眠りモードに誘っていきます。白い光の明るいシーリングライトがついていて、いきなり消されるよりもそっちの方がいいですよね。

なるほど。最近はアレクサやGoogleホームなんかも出てきて話しかけたら調光してくれるような機能も出てきているみたいですし、時間に合わせて勝手に調光してくれるような機能もこれから出てくるといいですよね。

夜の景観をつくるには?

最近当社では外構の植栽にも力を入れて住まわれる方の暮らしの豊かさや周辺との調和や景観の事も考えながら住まいづくりをさせていただいているのですが、照明業界では「景観をつくる」というと、どのような事が実現できると考えられていますか?

「夜の景観」を考えたときに、まず街の防犯灯が今はLED照明に変わっているのですが、蛍光灯を使用していた頃よりも「明るい」よりも「まぶしい」印象があります。
また、夜の住宅街は昔より暗くなっていると感じます。その一つの理由が防犯シャッターで、夜になるとシャッターを閉めておられる家が多いですよね。南側に付けられた掃き出し窓に関しては、道路からの視線を気にして一日中閉じられている可能性だってありますよね。
昔は自然と住宅から明かりが漏れていたということを考えると、今はそれすら無くなっているという状況で、個人の防犯性・安全性を重視することで、街並みは「不安を感じる暗さ」になっているように思います。

窓から漏れてくる光は確かに減ってきている気がします。夜住宅地を歩いていても暗いから無意識に早足になりますよね(笑)

そうですね。私の家も16区画の分譲地の一角にあるのですが、防犯シャッターを付けていない家が私の家も含めて2区画しかありません。私の家がちょうど分譲地の入り口にあるのですが、自分の家のFIX窓から漏れてくる電球色のあたたかい光が、やっぱり安心しますよね。柔らかい光が漏れてきて、家族の営みを感じられて…それが一番の外構照明というのか、安心できる街の明かりなのかなと感じます。

なるほど、家から漏れる明かりが景観をつくるという事ですね。家から漏れてくる光の他に、照明で作り出された夜の庭空間の陰影もなかなかいいものだと思うのですが、その辺のテクニックみたいなものを聞かせていただきたいです。

この数年間、木に対する光の当て方をずっと研究してきました。それを写真で撮りためたことが、他の照明プランナーと差別化できているところかなと思っています。

今まで、住宅の外構照明や木のライトアップをまとめた本というのは少なかった上に、写真を載せているものがほとんどありませんでした。なので写真を撮りため続け、「木に光を当てた時の正解ってなんだろう?」と考えたときに、やっぱり自然の光に近付ける事だなという事が一つの結論として出てきました。自然に存在する木は自然な当て方をした方がいいんじゃないかと思っています。でも外構照明ってほとんどが地面につけるじゃないですか。そこから煽り上げるアッパーライトっていうのは不自然じゃないのかなというのが気付いた点のひとつです。

じゃあ木々を照らすのであれば上の方からが良いということですか?

針葉樹と広葉樹では光の透け方が異なるそうです

上の方からとか、影を出さないようにするとかが良いのではと考えています。下からの光は不安や恐怖を感じさせることもあり、人の顔も下から光を当てると怖いですよね(笑)
なので外構には太陽光、月明かりを模した上からの照明が一番良いのかなと思います。

色々考えられている訳ですね。座学で終わらずにそうやって結論を導くことが出来るのはそれだけたくさん夜に現場に行かれたということですよね。業務時間外なので大変ですね(笑)

そうですね、働き方改革に完全に逆行してますね(笑)照明なんて特に現場を見ないと分からないですからね。

「建築化照明」って何?

外の照明の話もそうですが、やはり家の中の話がメインになるのかなというところで、先ほど仰られたように昼間は出来るだけ照明の気配を消してプランニングされますよね。その中で言葉として「建築化照明」という言葉があると思うのですが、どういう照明のことを言うのでしょうか?

一般的に「建築化照明」と同義的に捉えられているのが「間接照明」です。私が考える定義では、建築の中で照明器具が美しく存在を消し去り、建築と照明が調和し、一体化しているのが「建築化照明」です。

じゃあ「間接照明」のその上とういうことですね。

そうですね。その空間を読み取って、建築の動線や壁、天井などの空間構成を把握した上で隠すという事が「建築化照明」なんじゃないかと思います。
照明器具は見えないけど光は存在しているのが、美しい「建築化照明」だと言えます。
照明計画はやっぱり設計さんの立場に立って建築を一緒に考えていくことが大切ですし、僕らもいただいた図面の情報の中で、この人はこういう事を考えて設計しているんだろうなという事を先読みしてそれをご提案することが喜びであり、喜ばれることでもありますね。

大変ですね(笑)図面から立体を立ち上げて空間を想像しながらの照明計画…半ば設計士の領域ですよね。

照明の流行について

住宅はいろいろなカテゴリーがあるのですが、結局全部ちょっとずつ繋がっていますね。
住宅建築に携わっている中で、住宅の外観やインテリアに関してはやはり流行というものがあるのですが、照明にも流行はあるのでしょうか?

照明の「進化」という観点から言うと、光源がLEDに変わり、消費効率がどんどん高くなって長寿命化していって…という話で終わってしまいますが、やはりインテリアに合わせて照明のトレンドや形もどんどん変わっていっています。住宅においてはそこまで大きな変化はなかったかもしれませんが、飲食業界なんかを考えてみると、私が大学生の頃の2000年前半はおしゃれなダイニングレストランやカフェブームの真っただ中で、裸電球にキャンドルを灯したようなやわらかい明かりの空間が流行っていましたが、就職してお金を稼ぐようになったらハービスENTなんかにもいくようになり、そこにはどんな照明がついていたかというとグレアレスダウンライトやシャンデリアが灯いた陰影を重視したスタイリッシュなもの。今はまた昔のカフェブーム時のような少し薄暗い優しい明かりというのが流行っているように感じますよね。

そうですよね。住宅で考えてもダインライトが綺麗に天井にシンメトリーに並べられてる家って最近はあまり見なくなってきましたよね。

そうですね。私が住宅照明を始めたときは、シンプルモダンが前提で、真っ白で緊張感のあるような空間が流行っていました。それに合わせてダウンライトを小さくするとか、間接照明だけの空間が多くて、私もそういう照明計画が好きでしたし、それが一つの大きなトレンドだったかなと思います。その中にいろいろなインテリアの要素が入ってきて「隠す照明」からデザイン性の高いペンダントやスタンドなんかを使った「見せる照明」へと変わっていっていると感じます。

お客様にも少しずつ照明がインテリアの一部であると認識されつつありますよね。ファッションの感覚で器具をチョイスされているような場合もありそうですね。

そうですね。やはりファッションとインテリアは繋がっているとは思います。ですが、家はやはり長いスパンで考えるものなので、流行りを突きつめすぎるのもどうなのかなと。ファッションで言うと5年前「かっこよかったもの」が消費されて5年後はだいたい「かっこ悪く」なるじゃないですか。流行を意識しすぎて照明器具を選ぶと、住む人が少し可哀そうかなと思ってしまいますね。大抵の人は30年以上その家に住みますから。

なるほど。住まう場所は飽きの来ない普遍的なものが良いという事ですね。

タイコーの家づくりについて

タイコーの家の照明計画にも携わっていただいていると思うのですが、タイコーの家の印象はどうですか?

デザイン面、性能面がすごくバランスよく収まっているなあというのは感じます。
やはり工務店さんが住宅の質を上げていかないといけないと思っています。
住宅業界がローコスト化していく方向もある中で、性能・質・デザインを保っているタイコーさんの家というのはちゃんと世に広まればいいなと…

持ち上げていただいてありがとうございます(笑)
タイコーは「こういう家を建てるべきだし、建てたい」という明確な意思を皆様にお伝えして、同意していただいた方のお家を建てさせていただいているのですが、私たちのような地域に根付いた工務店の家づくりがもっと世の中に広まればいいというのは私も思っています。
自分だけが…と考えると技術や知識、テクニックも含めて隠せばいいのですが、タイコーは割とオープンに伝えています。出来る会社と出来ない会社の知識と経験の差がありすぎるというのはゆがんだ状態だと思うので、正常な状態になるべきだと思いますし、そのエリアの家はそのエリアの人が担っていくべきだと私は思います。そういう活動もしたいなあと思っております。

タイコーさんでいうと、インテリアコーディネーターの林さんや、中野さんが窓口で照明の話をさせていただくのですが、とても勉強熱心で、照明計画に関してすごく貪欲だなと感じます。やっぱりそれも社風なのかなと思いますが、照明計画は効率重視で1時間でやるのが当たり前みたいな会社さんもおられる中で、わざわざ聞いてきてくれて一緒に考えるというのは基本的には時間のかかる事じゃないですか。それが会社として出来ている事がすごいなと思います。

ありがたいことに家が好きな人が集まってくる会社なので…(笑)

2030年の住宅はどうなっている?

いろいろお話をお伺いして、最後のまとめなのですが、この10年間で住宅はとても進化してきたのですが、さらにこの10年間でもっと何か変わっていくと思います。照明業界も含めての住宅業界の次の10年はどのような感じになると思いますか?

私たちの会社でもよく言われているのが、「少子高齢化」と「日本の借金問題」が起因して住宅の着工件数はみるみると落ちていきますよね。
私たちはそこに思いきり打撃を受ける立場なので、なんとか差別化をしていかないといけないという状況にあると思っています。
その中でも照明提案の「質」というのを、本当に高めていかないと仕事が無くなるのかなと。

住宅照明という業界を考えていった時に、この10年で白熱灯、蛍光灯だったものがLEDに変わるっていう一大事件が起こりました。10年前と今の照明では付いているものが全く違いますし、大袈裟かもしれませんが軽い産業革命みたいな話だと思うんです。

そうですね。この10年間の照明業界はものすごく伸びたじゃないですか?

伸びましたね。ただ、それで住宅照明の「質」が上がったのかと言われれば別の話です。結局照明業界が住宅照明のLED化で何を目指したかっていうと、コストを下げるという事と、従来光源(白熱灯や蛍光灯)に光の質を近づけて違和感を無くすという事だと思うんです。
ここ2~3年というと、LED化に対して、デジタル化が加わってきています。いわゆるIoT化ですよね。この流れに乗らなかったら多分大変だろうなと思います。

じゃあなんか次の100年に自慢できるような何かを発明してください。エジソンばりに(笑)

本当に画期的なものを発明出来たらいいですね。よく言われているのは住宅が建材化するということです。有機ELが発達していくと紙が照明になるんですよね。だからクロスを貼って電気を繋いだらクロスが光るとか…
スイッチが無くなっていって声や動作、時間で動くようになってくるのは間違いないでしょうね。

とても興味深いです。
タイコーとしてはこれからも、昼の明かりも夜の明かりも大切にがんばって家づくりをして行きたいと思いますので、今後ともよろしくお願いします。

著書『庭と住まいの照明手帖』