家の話をしよう - 専門家との対談 [パッシブデザイン]
TALK SESSIONS
Passive Design
木村 真二きむら しんじ
株式会社Passive Design Come Home 代表取締役社長
1994年 一級建築士資格取得 2008年 安井建設㈱アトリエ・コ・ラボ所長として、設計業務に従事。2012年 パッシブデザインと出会い、家づくりの本質を捉えた設計思想に強い衝撃を受け、勉強を始める。 2014年 全国の住宅会社にパッシブデザインの設計手法を講師として提供。(2018年7月時点で約130社) 2017年 全国のパッシブデザイン設計者が集う自立循環型住宅研究会アワードにて、最優秀賞を受賞多くのパッシブデザイン住宅を手掛ける。 2018年 Passive Design Come Home設立。2019年 一般社団法人 Forward to 1985 energy life 理事就任。パッシブデザインを自社で設計施工する傍ら、全国32社のパッシブデザイン工務店のコンサルを行う。
取材:2021年3月2日
※記載の情報は取材時のものです。
- 聞き手:羽
- タイコー 羽柴仁九郎
- 語り手:木
- 木村 真二社長
断熱性能だけに囚われない家がたくさん求められるように
「パッシブデザイン」とは
羽木村さんはご自身の会社で設計施工をする傍ら、パッシブデザインのコンサルタントとして地域工務店にパッシブの考え方から設計、プレゼンの仕方までご教授なさっています。もちろん弊社もお世話になっております。
パッシブ界の大御所である木村さんにとっての「パッシブデザイン」とは何でしょうか?
木野池さん(一般社団法人パッシブデザイン協議会代表理事)の言葉を借りるなら、建物の周りにある自然エネルギー、太陽、風、地熱などを工夫してうまく活用・調節すること。それをシミュレーションしながらいかに省エネルギーで快適な家にするか、ですかね。
一般的な回答はこんな感じだと思います(笑)
私がお客様にお伝えしていることとしては、弊社では北海道の省エネ基準(G2)レベルの断熱性能、具体的にはUA値0.46W/㎡K以下を標準としていること。そして冬は太陽熱を室内にたくさん取り入れるために、南に窓をたくさん設けて日射取得をし、夏はルーバーや簾、デザインによっては庇などで日射遮蔽するようにしています。あと、家の中で一番エネルギーを使用するのが給湯器ですよね。これを高効率のものにしてもらい、照明はもちろんLEDを使用していただきます。太陽光パネルもできれば載せていただけるよう、ご提案しております。自社の太陽光パネルの搭載率は6割くらいですかね。これは全て「快適で省エネな家」を実現させるために必要なことです。
羽パッシブデザインといえば仕様の話になりがちですが、やはり設計手法のあり方であると私は思います。
先ほど手段の部分を結構お話しいただいたのですが、目的は「快適で省エネな家をつくること」だと思います。住宅展示場に行ってみると、「性能値が高い家をつくること」や「太陽光パネルを載せること」を目的としておられるお客様が多くいらっしゃる印象があり、目的と手段がごちゃまぜに伝わってしまっているのではないかと思うのです。木村さんはどのように思われますか?
木私もそれに関しては、すごく考えるところではありますね。
パッシブデザインがただの高断熱高気密や断熱材の種類、換気扇や全館空調など、省エネ設備の話になっているのは確かに憂慮しています。断熱仕様だけではなく、日射取得や日射遮蔽の数値計算が肝心になってきます。プロであっても、それをそもそも知らない方が多すぎます。自分たちの主張だけを一般の方々に伝えてしまって、鵜呑みにされることが本当に多い!
最近、性能を優先されるお客様が本当に多くて、私もそれをどう対応していこうかと。
私自身、YouTubeで情報を発信してみているのですがそれを見ずにいらっしゃる方もおられます。郊外の住宅展示場には行くけれど都会の工務店の事務所には足を運ばずにオンラインでお願いしますとおっしゃる方も多く、大変苦戦しています。そういうお客様は展示場の営業マンに性能値について洗脳されている方が多いなと思います(笑)
「それはちょっと違うんですよ」という話を、なかなか伝えきれないもどかしさがありますね。
お客様の「工務店」に対する期待感
羽実務としてのパッシブデザインであって、数値や仕様だけの机上の論理ではないということですね。
木村さんには4年前に弊社にコンサルとしてお越しいただき、設計・営業スタッフを中心にパッシブデザインをお教えいただいたのですが、あの頃から時代はコロナ禍を経て劇的に変化しました。一般の方々の「工務店」に対する期待値が上がったように感じているのですが、木村さんはどう思われますか?
木まずは、コロナ禍の影響もあり家づくりが2極化してきたように思います。工務店レベルでは価格競争となるローコスト住宅の会社は大手との価格競争でかなりつらくなっているようです。
一方で、コロナ禍の中でも影響の少ないハイグレードな家づくりをしている工務店が伸びていますね。そういう工務店はやはり家をしっかりつくりこんでいて、耐震性能、省エネ性能、快適性、デザイン力、この4つをちゃんとバランスよく実現している会社は著しく成長されていますね。またそういう工務店はSNSや動画投稿サイトでの情報発信も怠らない。そのおかげで確実にお客様の心を掴んでいる部分があると思いますね。
弊社のお客様もホームページの記事を読み込んできてくださったり、動画を見て勉強してきてくださいます。コロナ禍の影響で在宅率が高まり、家にいる時間が長くなったので、快適性と省エネ性能の高い家を求める方が多くなっていると感じています。
「ちょっと」カッコイイがミソ
羽木村さんに教えていただいた「強くて暖かくてちょっとカッコイイ家づくり」というシンプルな言葉、やはり強くお客様に届いているのかなと思います。ちょっとカッコイイというところがミソですよね?(笑)
木そうですね。
「すごく」カッコイイっていうのは難しいかもしれませんが、できるだけこだわりを強く。お金をかけることでいくらでも良いものをつくることはできますが、全部やってしまおう!となると、いくら予算があっても足りません。
羽ちょっとカッコイイくらいがちょうど良いんですよね。
お客様のご要望が、「広い家をつくってほしい」というようなアバウトなものではなく、よりリアリティのあるものになってきていますよね。最近は家づくりの意識が高いお客様が多くいらっしゃいます。価格はもちろん安いわけではありませんが、コストにそこまで拘らず、機能的でデザイン性の高いものを選択をされる方々に、弊社がパートナーとして選んでいただけることはとても光栄であり、またプレッシャーでもありますね。
今回タイコーでは新しいモデルハウス『LIFE』を建てるにあたり、設計士4名の社内コンペをさせていただき、見事選ばれた設計士のプランが実際に建築されます。木村さんにも審査員として参加していただきます。
パッシブデザインといえばスペックというハード面があって、そこに設計士が要望や立地を読み解いて感性的にプランを考えていくソフト面も合わせ持っています。私はソフト面の重要性についてよく考えています。パッシブデザインを突き詰めていくと「この敷地にはこれが最適解である」といったようなものが見えてきます。その考え方を踏まえながらも、最終の目的である「快適で省エネな家をつくること」を実現するために、お客様のご要望とともに、設計士の個性を尊重していきたいと思っております。省エネの基準や快適性能を満たしていたら、家の形はどうであっても良いと思うんです。その基準を満たした上で、設計士4人がどんな提案をしてくれるのか、私自身もすごく楽しみにしています。
木村さんはこの後のプレゼンでどれくらい異なったプランが出てくると思いますか?
木皆さんにお会いしたのが4年前ですから、どのくらい腕を挙げられているかは想像出来かねますね…。ですが、よく羽柴社長のSNSで拝見するCG等を見ると、真剣に家づくりをされているのはもちろんですが、お客様にわかりやすく伝えようとする様子が伺えます。
パッシブデザインは、当然数値をクリアすることが大切なのですが、お客様にどう伝えてきちんと理解していただくのかという、伝える技術がすごく大事だと思っています。そこも踏まえてみなさんのプランを、すごく楽しみにしています。
羽あまりハード面の話ばかりすると、誰がやっても同じものが出来なくてはいけないのではないかと思ってしまいます。一般解も必要ではあると思うのですが、「〇〇さんだから良い!」みたいな感覚的なものも大切ではないかと私は思っています。ハード面とソフト面を切り離さずにどう伝えたら良いのかというところで、今回はこういうプロモーションを計画しました。
羽今回のコンペでは設計士のキャラクターが伝わりやすいように、各設計士にちょっとしたあだ名をつけてみました。前田パッシブ良、中瀬クラフト由子とかって。
ちょっと冗談っぽく、楽しんでもらえたらいいなと思ってこのコンペを開催することにしたんです。家づくりって難解なイベントなのでお客様も構えてしまいますし、土地探しも慎重に行わないといけません。その上で家本体はどこに頼むのかとか、そもそも家のプランについて考える以前に、すごく気を張っていないといけないことが多いですよね。不安感やプレッシャーで家づくりを楽しめないお客様もいらっしゃいます。
私は是非ともお客様には、家づくりを楽しんでいただきたいのです。せっかくの人生一大イベントですから、結婚式みたいに、エンターテイメントとして楽しんで家づくりをしていただくことが私の理想ですね。
木ますます期待値が上がりますね。
審査させていただくのが楽しみです。
デザインと性能を両立するには
木最近は断熱性能はG2じゃダメだなって考えてるんですよ。
羽ま、まだ足りませんか!?
木足りないとかではなく、G2をギリギリクリアできる家では家づくりを楽しめないということです。もっと余裕をもってやっていかないと攻めたものがつくれない。例えば、窓をたくさんつけたいけれど性能値が足りなくなるから仕方なく窓をなくして、デザインが損なわれてしまうのは良くないと思うんです。UA値も0.46で満足するのではなくて、0.4を切ることを目標にしたい。そうすれば「ここはドーンと窓を取りましょう!」って、より良いデザインを提案することができます。基準値を大幅に下回っていれば、多少攻めたデザインをしても性能は保たれる。そういうところを目指していきたいなと思っています。
羽性能をあげようと思うと断熱材の種類を変えたり、ダブル断熱にしたりしていかないとダメですかね。
やはりデザイン性の高いサッシは性能が悪いですし。
木そうですね。ダブル断熱も視野に入れていかないとデザインと性能の両立はなかなか取りづらいかなと思います。
木ただやはり南面窓の日射取得率には拘りたい。
最近勉強不足で新しい情報を得られていませんが、日射取得率の高い樹脂サッシってでてきてるんですか?
羽ないです(笑)特に準防火地域なんて……
窓でいうと、やはりLIXILのサーモスXは高さが2.4mまであって窓枠も細いですよね。デザインに拘っているから賢くYKK APのAPWと渡り合っているなと思います。弊社もデザイン上どうしてもというときはサーモスですね。実際YKKの方がサッシの断熱性能自体は上なのですが…。
これから目指すところ
羽デザイン性を優先しても良いという選択肢があることを、我々がうまくお客様にお伝えできれば良いんでしょうね。
すでにパッシブデザイン界の大御所である木村さんですが、これからこの業界でやりたいことをお聞かせいただきたいです。一社の未来なんていうレベルではないと思うんですよ。
木いやいや(笑)
やはり私自身、省エネ住宅・快適住宅・パッシブデザインをひとりでたくさん世に生み出していくのは厳しいです。ですから自分がコンサルを任せてもらっている会社さんには、本当に頑張っていただきたいですね。
あと野池さん(一般社団法人パッシブデザイン協議会代表理事)にやってほしいと言われていることがあります。弊社ではありがたいことに、富裕層のお客様にもお越しいただいているのですが、富裕層の方々によくあるケースが、高いお金を出して省エネ住宅を建てていただいたのは良いものの、住まわれてからは特に光熱費を気にすることなく使われているということ。省エネ住宅を活かしきれてないんです。そこで、大きな家でちゃんと省エネをやるという価値観を、富裕層のお客様に伝えていきながら家づくりとしていきたいなと思っています。
羽たしかに富裕層の方々は光熱費を気にされていない方も多いように思います。でも世界的な基準でのクールの価値観が、それじゃダサい!にどんどん変わってきていますよね。「光熱費はどうでもいいけど、こういう人生の方がクールだよな」とか「社会に対してこうありたい」とかっていう意思表示が、家づくりにも出ると思います。その価値観が日本でもちょっとずつ変わっていかざるを得ないのかなと。
木それこそハリウッドで活躍しているセレブたちがエコカーに乗る、みたいな感覚をですよね。
羽そうですね。富裕層の方々が変われば、世の中の家づくりに対する考え方も変わるのかなと思います。
2030年、日本の家づくりはどうなる?
羽最後になりましたが、2030年日本の家づくりはどうなっているとお考えでしょうか。
木希望的観測ですが、断熱性能だけに囚われない家がたくさん広まっていてほしいです。日射取得・遮蔽ができる日本的なパッシブデザインをされた家が広まって、さらに耐震性能とデザイン性がしっかり考えられる人が増えていてほしいですね。
本当にデザイン性は大事です。正直、省エネ住宅で売れている家があまりにもカッコ悪い!そんなものが売れていくのは、建築に携わるものとして許せませんね。しかもそういう家はどこに建てても同じなものをつくっている気がします。日照シミュレーションをやっているようでやっていないみたいなところもあります。それをごまかすために断熱性能を上げているようにしか思えません。
本当に目指すところは、そこまで断熱性能にお金をかけず、自然エネルギーで日射を取得しつつ、設計によってコストを抑えながら、余った分のお金で質の良い家具やキッチンなどでデザイン性を高めていくというところ。
あと、太陽光発電だけは二酸化炭素やエネルギー削減というところで搭載せざるを得ないと思っています。それをいかにデザイン化していくかという問題も解決していきたいですね。弊社では、あまり良いアイデアではありませんがパラペットを1mくらい立ち上げてみたり、屋根と太陽光パネルが一緒になっているものを採用してみたりしています。省エネのためにデザインが損なわれることは避けたいですし、そういう部分をいかに綺麗に仕上げていくかというところを頑張っていきたいです。それの旗振り役になりたいですね。そんな家をつくることが普通になっていってほしいです。
羽おっしゃる通りです。
ハード面はだんだんと均一化されてきていて、そこで差別化しようという不毛なことはもうしたくありません。国の方で義務化の基準を早く設定してもらいたいです。その上でソフト面を考慮して「あなたに設計を任せたい」と言われるとやりがいがありますし、より良い家をご提案させていただきたいと思いますね。